サステナビリティと経済成長は両立するか――シスコの取り組みから考察する:Weekly Memo(2/2 ページ)
サステナビリティに取り組む企業が増えている。サステナビリティの推進と経済成長は相反する動きにも見えるが、果たして両立するのか。シスコの取り組みから考察する。
「同時の実現」ではなく「まずサステナビリティありき」へ
筆者の質問は、「シスコとしては、今後も世界は経済成長を追求しながら、サステナビリティを実現していけると考えているのか」。これに対し、高橋氏は次のように答えた。
「ご質問の意図通り、経済成長とサステナビリティは相反するものだと認識している。ただ、それでも当社がサステナビリティを推進するのは、経済成長と同時に実現していかなければならないと考えているからだ。インターネットが急速に普及し活用されていく中で、それに伴うさまざまな動きから二酸化炭素(CO2)の排出量を下げていかなければならない。米国のシスコ本社の開発部門では、こうした相反する2つのことを同時に実現できるようなアプローチを行っている」
実は、この質問に対して、企業の多くがシスコと同じく「同時に実現することを目指す」と答える。おそらくこの表現でしか答えようがないのかもしれない。そうした中で取材を重ねてきた筆者の現時点での見解を述べたい。
それは「これからの経済成長(ビジネス)はサステナブルな社会を創るための活動であるべきだ」というものだ。言い換えると、サステナビリティが第一命題で、ビジネスはそれを進めるための手段であるということだ。以降、理解していただきやすいように経済成長を「ビジネス」と表現する。
「同時の実現」も解釈によっては同じとも受け取れるが、筆者の見解で強調しておきたいのは「まずサステナビリティありき」ということだ。そう考えると、企業にとっては自らの成長に相反する動きも起こり得るだろう。それをどうマネジメントし、自らのビジネスをサステナビリティの実現に向けて継続させていくかが課題となる。
では、サステナブルな社会を創るために、企業だけでなく私たち個人も含めて今やるべきことは何か。これまでの取材を通じて強く思うようになったのは、従来の「大量」消費から「適正、堅実」な消費へと消費モデルを転換することだ。ビジネスの観点から言えば「多品種少量生産」や「的確な需要予測」、さらに「モニタリング」や「サブスクリプション」などもキーワードになるだろう。こうした取り組みには、デジタル技術が大きな効果をもたらす。
もう一つ述べたいのは、「サステナビリティの大事なポイントは、生き残るために『進化』していくことではないか」ということだ。では、進化していくために何が必要か。知識を詰め込んで賢くなることでも、体力をつけて強くなることでもない。肝心なのは、変化に対する「適応力」だ。これはまさしくダーウィンの進化論である。
そう考えると、サステナビリティの本質は適応力といえそうだ。
なお、上記について「筆者の現時点での見解」と述べたのは、サステナビリティについてはこれまで本連載記事でも、2022年7月19日掲載の「なぜDXとサステナビリティを『分けて考えてはならない』のか――SAP、Oracle、富士通の見解から探る」、2022年10月11日掲載の「サステナビリティは『ビジネス』になり得るのか――富士通の活動から探る」において取り上げている。筆者の見解も少しずつ変化してきており、これからも異なる見方を採り入れる可能性があるテーマだからだ。
サステナビリティは人類の存亡に関わる大きなテーマだ。引き続き、何が最善の方向なのかを追求していきたい。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身
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