「もうかるビジネス」になったNECのDX事業をユーザー視点で“点検”:Weekly Memo(2/2 ページ)
企業がDXを推進する上での勘所はどこにあるか。DX事業を「成長のドライバー」と位置付けるNECのDX事業からユーザー視点で探ってみたい。
DX推進による経営目標を明確に定めよ
では、3つのアプローチについて、NECの最新の取り組みをそれぞれ見ていこう。
まずは、ビジネスモデルについて、吉崎氏は「コンサルティング起点で、戦略構想策定から実装・運用まで、エンドツーエンドでお客さまのDXを強力に推進している」ことを挙げた。すなわち、ビジネスモデルの変革に対するソリューションはコンサルティングが決め手になるとの考え方だ(図4)。
このため、NECでは子会社のアビームコンサルティングのコンサルタント約7500人に加え、社内人材のリスキリングや外部採用により2023年度で500人の社内コンサルタント体制を整え、2025年度(2026年3月期)には1000人へと倍増させる計画だ。吉崎氏は社内人材について、「社内でITやネットワークの実装経験がある人材に、メソトロジーやフレームワークを教えれば(コンサルタントは)できるはずだということで動き出した。この動きが500人、1000人に広がっていくと確信している」と述べた。
こうした取り組みによって「これまで約200社にコンサルティングサービスを提供している」(吉崎氏)とのことだ。
NECのビジネスモデルをユーザー視点で見ると、外部のコンサルタントを使うかどうかは別として、自らのビジネスモデル変革について何をどうしたいのかを明確にすることが全ての出発点となる。
次は、テクノロジーについて、吉崎氏は「これからのテクノロジーは、ハードウェアとソフトウェアとネットワークの掛け算で進化のスピードが進展する」と説明した(図5)。それぞれの注目領域については「ハードウェアは『エッジ』。背景には半導体の性能向上がある。ソフトウェアは『アプリケーション』。背景にはAI活用の広がりがある。ネットワークは『コネクティビティ』。背景には5Gや6G、デジタルツインの普及がある」とのことだ。
そして、これらの掛け算によって起こり得るのが「AI(人工知能)やデータ活用による自動化・自律化」および「アジャイルなテクノロジー導入・運用」だ。特に生成AIは、NECとしても日本市場に向けた独自のLLM(大規模言語モデル)を開発するなど活発な取り組みを行っている。
ユーザー視点でテクノロジーの話を見ると、図5の内容をそのまま「ビジネスでの競争力を強化するテクノロジー」と見て取ることができるだろう。その意味では、貴重な図だといえる。
最後に、組織・人材。吉崎氏は「社内DX人材育成実績をもとに、デジタル時代に必要なDX人材育成プログラムをワンストップで提供している」ことを挙げた。すなわち、DX人材をどう育成していくかが大きな課題となっている(図6)。
NECではDX人材を7つの職種と定義している(図6左上)。社内DX人材は2022年度で7609人おり、2025年度にはこれを1万人にする計画だ。育成方法としては「NECアカデミー for DX」と呼ぶ教育体制を整備している(図6右)。当初は社内向けだったが、今では社外向けに事業としても展開しており、これまでに約320社の利用実績があるという。ユーザー視点で見ても、DX人材の確保は大きな課題だ。こうした教育体制を利用することで、自らのビジネスモデルの変革を推進するDX人材を社内で育成していく取り組みは、これからどの企業にとっても必須になるだろう。
NECは2022年度で黒字転換したコアDX事業の売上高2401億円を2025年度には5700億円と2.4倍に拡大し、営業利益率13%の「稼ぎ頭」に育て上げる計画だ(図7)。
この点も、ユーザー視点で見て大いに参考になる。それは、DX推進による経営目標を明確に定めることの重要性だ。さまざまな指標があろうが、結果的には業績として旗印を立てるべきではないか。
その意味でもDXはビジネス、テクノロジー、マネジメントの3方向からのアプローチで進めることが重要であることを改めて強調しておきたい。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身
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