農薬分野の老舗がAS/400をS/4HANA Cloud Public Editionへ 個別最適化した運用をどう変える
丸和バイオケミカルは、改修コストや属人化が課題だった旧基幹システムAS/400を刷新し、SaaS型ERP、SAP S/4HANA Cloud Public Editionを採用した。Fit to Standardに基づき業務を標準化し、個別最適化を脱却を目指す。
農薬分野を手掛ける丸和バイオケミカルは、長年基幹システムとしてきたレガシーな「AS/400」からの脱却を図り、次期販売生産管理システムとしてSaaS型ERP「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」の導入を決定した。
個別最適化したAS/400の運用から、全体整合性を確保したSaaS型ERPへの転換をどのように実現するのだろうか。
AS/400の個別最適化した運用をどう変える
SAPジャパンは2025年11月13日、日本ビジネスシステムズ(JBS)とその連結子会社SureBizCloud(Sure)が、丸和バイオケミカルの次期販売生産管理システムとしてSAP S/4HANA Cloud Public Editionを導入するパートナーとなり、業務革新を目的としたERPプロジェクトを開始したと発表した。本取り組みは、丸和バイオケミカルの基幹業務基盤を刷新し、将来を考えた経営体制を整備する狙いがある。
プロジェクトではJBSがクラウドインテグレーションに関する知見を生かし、全体設計と構築を担う。SureはクラウドERP導入に特化した経験を基盤に、計画立案から実装、現場への定着支援までのプロセスを担当する。標準機能を優先したFit to Standardの考え方に基づき新たな基盤を構築し、業務の標準化と最適化を推進する。個別に最適化された運用から脱却し、全体整合性を確保した仕組みを整える計画を立てている。丸和バイオケミカルはこれを通じて経営基盤を再構築し、DXを促進する姿勢を示している。
背景には、日本企業におけるレガシーシステム依存が長期化している現状がある。経済産業省は過去の報告書で、デジタル化が遅れることで経済的、技術的な負荷が高まる状況を示してきたが、多くの中小企業では依然として基盤刷新が進みにくい状況が残るとされる。丸和バイオケミカルの事業領域である農薬分野では気候変動によって病害虫発生の変化や降水量変動が発生し、市場対応力の向上が求められつつある。同社は従来はAS/400を基幹としてきたが、改修コスト増加や属人化、最新技術の導入困難といった課題が顕在化していた。
こうした状況を踏まえ、次世代へ事業をつなぐ基盤構築を目的として、SAP S/4HANA Cloud Public Editionを採用した。JBSは約15年にわたり同社のIT環境を支援してきた経緯があり、今回のプロジェクトでも全体統括を担う。
プロジェクトは「準備」「評価」「実現化」「デプロイ」「運用」の5つの段階で進行する。準備段階ではプロジェクト計画とイネーブルメントを実施し、評価段階ではFit to Standardの設計と移行案を策定する。実現化では設定作業や総合テスト、移行リハーサル、利用者教育を実施し、デプロイ段階でエンドユーザー主体による実業務シナリオテストや本番移行を実施する。運用段階では障害対応や問い合わせ対応の他、操作支援や引継ぎをする。
SAP S/4HANA Cloud Public Editionは、基幹業務をクラウドで提供するSaaS型ERPだ。SAPは約50年にわたりERPを提供してきた経緯があり、各種業務プロセスに関する知見を保有している。標準機能を基準に業務を設計できるため、更新容易性と将来の柔軟性を確保しやすく、丸和バイオケミカルが抱えていた基盤刷新の課題解決に適すると判断された。
丸和バイオケミカルは100年企業として持続的に成長することを掲げており、本プロジェクトはその戦略の中核に位置付けられている。事業承継や次世代型経営基盤構築を視野に入れた取り組みとして、全社的最適化を実現する基盤整備を推進する計画だ。ERP刷新によって業務プロセスを抜本的に再設計し、変化しやすい環境への適応力を高め、長期的な企業発展につなげる構想である。加えて、この取り組みが日本産業の国際競争力強化にも資すると位置付けている。
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