DXは「経営上の最優先」でも人材育成は後回し 経営層と現場のギャップが人材不足を加速か【調査】
DXは最優先課題だが、育成を重点施策とする企業は13%にとどまり、経営層の認識と取り組みに大きなギャップがある。システム先行でリスキリングが遅れ、デジタル人材不足を加速させている実態が判明した。
調査により、「DXは経営上の最優先課題」と認識する企業が多数を占めるが、その実現に不可欠なデジタル人材の育成が大きく立ち遅れている実態が明らかになった。
調査結果を基に、DX推進成功のために企業が取り組むべき、人材育成の戦略策定と評価制度の強化について解説する。
DX推進を最優先するが人材育成は後回し
シナジーマーケティングは2025年11月14日、全国の経営者、役員300人を対象に実施した「DX推進における人材育成とマーケティングスキルに関する意識調査」の結果を公表した。DX推進が経営上の最優先課題として位置付けられながら、人材育成への投資や評価体制が十分に整わず、経営層の考えと事業部門の状況に差が生じている様子が明らかにされている。
調査において、回答企業の56.7%が「全社的にDX推進に取り組んでいる」と述べている。DXを推進する上で注視すべき施策としては、「新しいツールやシステムの導入」(25.3%)、「既存システムの改善・強化」(20.0%)、「データ基盤の構築」(11.3%)が上位に挙がっている。他方で、「既存社員へのリスキリング・アップスキリング」(13.0%)は低い水準にとどまり、設備やシステム面への投資が先行している状況が読み取れる。
DX推進における人材育成に関する姿勢では約半数が「DX推進と並行して進めている」と回答したが、人材育成を重点課題として位置付ける企業は17.0%にとどまった。また経営層の7割超がデジタル人材育成を事業戦略上の重要項目と認識しているものの、実際の重点施策として扱う企業は13%にとどまり、認識と実際の取り組みに大きな開きがあることが判明している。
デジタル人材育成の実施状況については、「自社での研修を企画・実施」(38.3%)、「育成プログラムを策定・実行」(35.7%)、「OJTを中心に実施」(30.7%)、「eラーニングなどオンライン活用」(30.0%)が挙がり、自社での対応が比較的多い結果となった。ただし、投資収益率(ROI)や成果指標を明確に把握している企業は3割弱にとどまる。29.7%が「数値目標は設定しているが評価は難しい/数値での評価ができていない」と回答しており、約7割の企業でデジタル人材育成への費用対効果が把握できていないことが分かった。
デジタル人材に関する課題では「人材不足」(49.0%)が突出している。続いて「部門間で人材育成の温度感に差がある」(21.0%)、「人材育成担当者の不足」(20.3%)、「最新技術への対応が遅れている」(18.7%)が挙がり、企業内での知識共有や教育体制の課題が表面化している。
マーケティング領域で不足している技能については、「生成AI活用スキル」(44.0%)、「高度なデータ分析・解析スキル」(44.0%)、「顧客データ統合・活用スキル」(29.7%)が続き、専門性の高い技能を備えた人材が足りていない様子が示されている。最新技術を扱う上で不可欠な能力としては、「データ分析による課題の発見・抽出と解決力」(48.3%)、「新技術を取り入れて新しい価値を創造する応用力」(38.3%)、「市場の変化に対応した情報収集・学習能力」(32.3%)が挙げられている。
今後の育成施策としては、「社内研修・ワークショップの充実」(46.3%)、「外部の専門家や研修、セミナーの活用」(37.0%)、「eラーニング・オンライン講座の導入」(32.0%)が挙がり、学習機会の多様化が求められている。また組織として強化すべき制度として「全社的なリスキリング・アップスキリング戦略の策定」(43.0%)が多く、「最新技術(生成AIなど)に対応した専門スキル評価制度の導入」(39.0%)、「部署を越えたナレッジ共有・学習コミュニティーの活性化」(33.3%)、「人材育成の目標と個人の評価を連動させる仕組み」(32.7%)が続いている。
生成AIの普及に伴う懸念点としては、「セキュリティおよびプライバシー侵害の懸念」(40.0%)が最多となり、「自分で考える力や判断力、決断力、想像力の欠如」(34.7%)、「誤情報生成によるブランド毀損リスク」(30.0%)、「倫理的問題や著作権侵害のリスク」(28.3%)が続いた。AI活用に伴う利便性の拡大だけでなく、業務品質や判断精度の低下が起こる可能性への警戒が高まっている様子が見える。
今回の調査で、DXを推進する上での基盤整備が進展していることがうかがえる。しかし、人材育成が体系的に整っていない現状が浮き彫りにされており、技術と人材の両面を整備し、長期的な育成計画体制を確立することが求められている。
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