2026年のIT動向は? Dellらが発表した「5つのキーワード」から考察:Weekly Memo
2026年、エンタープライズIT市場はどう動くか。DellやZoom、ServiceNow、BoxなどのITベンダーが年末年始に発表した予測から5つのキーワードを抽出し、考察する。
2026年、エンタープライズIT市場はどう動くか。ITベンダー各社が年末年始に発表したトレンド予測や年頭所感から筆者が注目した内容を5つのキーワードに集約し、考察したい。なお、外資系ベンダーの予測は、各社の日本法人が発表したものだ。
事業の成功を支える「レジリエンス」と「アジリティ」
キーワードの1つ目は「レジリエンス」、2つ目は「アジリティ」だ。
業界特化型ERPベンダーのInforは予測としてこの2つのキーワードを挙げ、次のように述べる。
「2026年は不確実性が高まる世界経済の中で、レジリエンスとアジリティが事業の成功を支える2つの柱となる。企業は恒常的な変動に加え、地政学的、環境的、技術的なショックにも耐えられるシステムを構築する必要がある。そのために必要となる根本的なマインドセットの転換は、今後さらに広がっていく。柔軟なクラウドネイティブアーキテクチャとリアルタイムデータ分析がこれを支え、意思決定者が迅速かつ十分な情報に基づいて判断できるようにする。先進的な企業は新たな機会を掴(つか)むために自社のビジネスモデルをこれまで以上に素早く適応させるだろう。アジリティを企業文化の一部として根付かせられれば、混乱は生き残りを左右する問題ではなく、イノベーションと成長を促進させるきっかけに変わるだろう」
ITの観点からすれば、この後に出てくるAIにまつわるキーワードが真っ先に挙げられるだろうが、筆者は上記にもあるように「不確実性が高まる世界経済」を最も憂慮する。従って、2026年のエンタープライズITの最重要キーワードとしては、レジリエンスとアジリティを挙げたい。この2つのキーワードは他のベンダーも挙げていたが、Inforのメッセージが分かりやすかったので取り上げた。
2026年は「エージェンティックAI元年」になる
キーワードの3つ目は、「エージェンティックAI」だ。
こちらもまずInforの予測から紹介しよう。
「2025年に始まった、生成AIとエージェンティックAIによるエンタープライズインテリジェンスのパラダイムシフトは、2026年にはさらに進む。生成AIとエージェンティックAIは単にタスクを自動実行する従来型の仕組みを超えて、ニーズを先読みし、革新的な解決策を生み出し、企業目標と整合した自律的なアクションを実行できるシステムを実現する。ERPアプリケーションやサプライチェーン管理の分野では、これはリアクティブなプロセスからプロアクティブなエコシステムへの移行を意味する。AIエージェントは在庫水準を最適化し、需要を高精度に予測し、人の介入を待つことなくコスト削減の機会を特定する。こうした進展によって業務効率やイノベーションのスピード、顧客ごとのパーソナライゼーションが大幅に向上する。結果として、企業の競争の在り方や価値創造モデルの在り方そのものが根本から変わるだろう」
エージェンティックAIについては、Dell Technologies(以下、Dell)やZoom Communications(以下、Zoom)も次のように発信している。
「われわれは今、自律型エージェントの時代に突入しつつあり、エージェンティックAIが単なる便利なアシスタントから、複雑で長期にわたるプロセスを管理する不可欠なマネージャーに進化している。2026年に向けて人々がエージェンティックAIを導入する過程で、AIエージェントが想像以上に多くの業務を遂行することに驚くことになるだろう。AIエージェントの存在自体が価値を生み、人間の効率を高めるだけでなく、AI以外の業務プロセスも、より良く機能させるようになる」(Dell)
「2026年は、AIの活用がさらに進む。中でもエージェンティック AIの台頭により、反復的な事務作業に費やす時間は大幅に削減され、人は創造性を要する業務や戦略立案、人間関係の構築に、より注力できるようになる。『人が担うべき役割とは何か』が改めて問われる時代の到来だ」(Zoom)
エージェンティックAIについては本連載でもこれまで重点的に取り上げてきたが、改めて筆者の見解を述べておくと、これからのエンタープライズITにおけるDX(デジタルトランスフォーメーション)そのもの、つまり、これまでのITにとどまらず企業の業務の仕組みそのものがデジタルになって自律的に動くようになるだろう。
2025年が「AIエージェント元年」だったとしたら、2026年はまさしく「エージェンティックAI元年」になるだろう。
「ソブリンAI」「雇用の再定義」、2026年の行方は…
キーワードの4つ目は、「ソブリンAI」だ。
これについては、セキュリティベンダーのF5が次のように予測している。
「AIが国家競争力の基盤となる中、各国政府はソブリンAIインフラに多額の投資を実施している。これを受けてコンピューティングやデータ、AIパイプラインは、国家単位で管理し保護すべき戦略的資産として位置付けられる傾向が強まっている。国内管理下のコンピューティング領域内で稼働するAIワークロードが増えるにつれ、量子耐性を持つ通信、AIランタイムセキュリティ、一貫したアプリケーション配信フレームワークの必要性がますます重要になるだろう」
ソブリンAIについては、Dellも次のように述べている。
「国家レベルでは、AIが国益にとって不可欠になるにつれてソブリンAIエコシステムの急速な台頭が続くと予想される。ソブリン型AI産業の規模は、現在多くの人が予想しているよりもはるかに大きくなるだろう」
ソブリンは「主権」という意味だ。とりわけAIおよびその原動力となるデータは、国家や企業が主権を持ってコントロールできるようにしておかないと、サステナビリティを維持できなくなる可能性があるとの危機感から注目されるようになってきた。その背景には、地政学リスクによる経済安全保障の動きがある。特に最近の国際情勢からすると、経済だけでは済まない安全保障リスクを強く感じる。ただ、ソブリンAIが広がることが国際社会にとって本当に良いことなのかどうか。そうした問題提起の意味も込めて、キーワードに挙げておきたい。
キーワードの5つ目は、AI利用の拡大に伴う「雇用の再定義」だ。
これについては、バックアップソリューションベンダーのVeeam Softwareが次のように予測している。
「AIが仕事を奪うという懸念は一部に残るが、実際には職務範囲(スコープ)の再形成が進む。AIを活用して業務を効率化および迅速化できる人材や企業が競争力を高め、新たな機会を創出することになる」
AIの利用拡大が雇用にどのような影響を及ぼすのかについては、多くのベンダーが言及しているが、ここではクラウドストレージサービスベンダーのBoxと統合型デジタルワークフローサービスベンダーのServiceNowの発信内容が分かりやすかったので紹介しておこう。
「日本は今、AIの力を借りて生産性を飛躍的に高める大きなチャンスを迎えている。少子高齢化による労働力不足という構造的課題を抱える日本だからこそ、世界に先駆けてAIを『新たな労働力』として活用する絶好の機会を得ている。日本企業がAIを活用して世界をリードするためには、このアクセルとブレーキの両立が不可欠となる」(Box)
「2026年は企業にとっての重要な転換点となる1年になる。少子高齢化の進行により労働力人口の減少が避けられない中、AIを積極的に活用し、業務の高度化と生産性向上を図っていくことは企業の競争力、ひいては日本全体の競争力を高める上で不可欠だ。併せて単なる効率化にとどまらず、従業員が働きやすく能力を最大限に発揮できる環境を整えることが、今後ますます重要になる。さらに、競争力を持続的に高めていくには優秀な人材をいかに確保していくかという視点も欠かせない。AIを活用し、今後の社会や働き方に大きな影響を与えるデジタルネイティブ世代が働きやすい環境を整備することは、人材獲得の面においても大きな意味を持つ。そのためにも、まさに今こそAIへの投資を進め、変革を着実に推進していく必要がある」(ServiceNow)
AIの利用拡大によって人の仕事はどうなるのか。これからますます論議されるテーマだろうが、この点については前出のZoomの発信から改めて「人が担うべき役割とは何か」を強調しておきたい。要は、この機に自らを主体に考えて自らの意思で方向を見出す絶好の機会と捉えて臨みたいところだ。そう臨めば、AIはまさしく頼もしい相棒(バディ)になるはずだ。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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