パソコンを動かす上で欠かせないOS(オペレーティングシステム)や、さまざまなデータを保存する「ストレージ」。最近では、データの保存に半導体(メモリ)を用いる「ソリッドステートドライブ(SSD)」を使う機種が増えてきました。
SSDのメリットは、何よりもデータの読み書きが速いことにあります。最近のノートパソコンでは「M.2(エムドットツー)」と呼ばれる規格の基板を使ったSSD(以下「M.2 SSD」)を採用するケースも増えています。
基板とはいえ、ノートパソコンの構造によってはM.2 SSDは取り換える(換装する)ことも可能です。取り換えることによって、容量を増やしたりさらに動作パフォーマンスを改善したりすることもできるのです。
この記事では、ノートパソコンに搭載できるM.2 SSDについて、取り換える上で気を付けるべきポイントと、それを踏まえたおすすめの商品をいくつか紹介します。
なお、シリアルATA(Serial ATA、SATA)規格に準拠した2.5インチサイズのSSDについては、別の記事でまとめています。
ストレージの換装(交換)は、メーカー保証の対象外となる場合があります。また、パソコンの設計(構造)によっては換装が不可能、あるいは可能でも困難なケースもあります。
お手持ちのパソコンにおけるストレージの換装は、自己責任のもと行ってください。
M.2基板のサイズには、幾つかの規格があります。超コンパクトサイズのノートパソコン(UMPC)でない限り、M.2 SSDを搭載するノートパソコンでは「Type 2280(幅22mm×長さ80mm)」という規格の基板を採用しています。それに合わせて、市販されているM.2 SSDもタイプ2280基板がほとんどです。
特殊な例外を除けば、M.2 SSDの“サイズ”で悩むことはないと思います。
一見すると、M.2 SSDはみんな同じような形状をしていますが、パソコンとデータをやりとりする方法(通信規格)が幾つかあり、パソコンが対応する規格に合わせて適切なものを選ぶ必要があります。
M.2 SSDの通信規格には、大きく以下の3つがあります。自分のノートパソコンがどの規格に対応しているのか確認した上で検討しましょう。
2.5インチSSDでも使われている通信規格で、容量当たりの価格が手頃なことがメリットです。一方で、後述する2つの通信規格と比べるとデータの読み書き速度が遅いことがデメリットです。
「安くて大容量なSSDがほしい」という人や、後述する理由から2015年までに登場したM.2 SSD対応ノートパソコンのパワーアップをしたい人は、この規格のM.2 SSDをおすすめします。
「NVMe(NVM Express)」は、パソコン内部のデータのやりとりで使われる「PCI Expressバス」の高速さを生かすべく生まれたストレージ用通信規格です。この規格に準拠したM.2 SSDは2016年頃からハイエンドなノートパソコンから搭載が始まり、現在ではミドルレンジのノートパソコンでも広く使われるようになりました。
メリットは読み書きが超高速なことにあります。ハイエンドなNVMe規格のM.2 SSDなら、読み込みは毎秒3GB、書き出しは毎秒2GBを超える速度が期待できます。
デメリットは、SATA接続のものと比べると容量当たりの価格が高いことと、発熱量が大きいことです。本体内の空間が狭いノートパソコンでは、発熱量が大きいものを選ぶと、SSDが自らの発熱を抑えるに読み書きを遅くする「サーマルスロットリング」が頻発する恐れがあります。
ただし、最近は読み書き速度を毎秒1.5GB程度にとどめることで価格を抑えたものや、ノートパソコンへの搭載を想定して発熱量を抑える工夫をしたものも増えています。
「動画の編集をよくする」「GB(ギガバイト)単位のデータを扱うことが多い」という人におすすめです。なお、NVMe規格のM.2 SSDに対応するノートパソコンの多くはSATA規格のM.2 SSDにも対応しています。
NVMe規格が普及する以前は、「AHCI(Advanced Host Controller Interface)」という規格を使ったPCI Express接続のSSDが存在しました。
2015年頃までに登場した「PCI Express接続SSD搭載」をうたうノートパソコンは、AHCI規格に準拠したM.2 SSDを搭載している可能性があります。AHCI規格とNVMe規格には互換性がないため、AHCI規格にのみ対応するノートパソコンにNVMe規格のM.2 SSDを載せても使えません。
現在、AHCI規格に準拠したM.2 SSDは入手困難です。入手できたとしても、NVMe規格のものよりもさらに高価です。古めの「PCI Express接続SSD搭載」ノートパソコンのSSDを交換する場合は、速度に目をつむってもSATA接続のものを選ばざるを得ない状況にあります。
M.2 SSDは、一見すると通信規格を問わず同一形状で見分けが付きません。パッケージや本体の記載で見分けることが一番確実です。特にNVMe規格の製品は、パッケージや本体ステッカーに「NVM Express」のロゴを付与しているものが多いので見分けに役立ちます。
基板の端子部の「切り欠き」で見分ける方法もあるのですが、一部に例外があります。繰り返しですが、パッケージや本体の記載で見分けることが一番確実です。
先述の通り、M.2 SSDでは接続規格によって大きく読み書き速度が変わります。NVMe規格に対応するノートパソコンなら、原則としてSATA規格のM.2 SSDも利用できるため、予算や期待するパフォーマンスに合わせて柔軟に選べます。
その原理上、SSDは容量が大きいほどデータの読み書き速度が向上する傾向にあります。ただし、容量が大きいほど価格は高くなります。必要な容量もしっかり吟味しましょう。
ノートパソコンではM.2 SSDスロット(差し込み口)が薄く作られていることが多いため、基板の片側にチップが集中した「片面実装」のSSDでないと、うまく装着できない可能性があります。購入する前に、そのSSDが片面実装のものであるかどうか確認するようにしましょう。
一部のモデルを除き、M.2 SSDに対応するノートパソコンはM.2 SSDを1枚のみ搭載できます。そのため、元から入っているものを新しいものと入れ替える必要があります。
入れ替え手順は、基本的には以下の通りです。本体の裏ぶたやSSDを取り外すために適切なサイズのドライバー(ねじ回し)も必要です。
SSDの着脱については、一部の機種では「取扱説明書」やサポートサイトなどで公開されている「保守手順書(修理サービス提供者向けの資料)」に記載されています。このような資料がある場合は、それを参考にして換装できます。
資料が無い場合でも、本体の裏ぶたを開けると換装できる機種が多いですが、本体をかなり分解しないと換装できないものもあります。「(機種名) SSD 換装」というキーワードでWeb検索をして、事前に情報を集めることをおすすめします。費用こそかかりますが、パソコンメンテナンスを専門とする業者に換装を依頼することも検討してみてもいいかもしれません。
手順の1にあるデータのバックアップですが、ストレージを丸ごとコピーできる「移行用ソフト(クローンソフト)」を使うと古いSSDから新しいSSDへと直接データを移行できて楽です。手順6にあるリカバリーも省略できます。
移行用ソフトは、無料で使えるものではEaseUS(イーザス)の「ToDo Backup Free」が、有料で使えるものではAcronis(アクロニス)の「True Image」が有名です。後者については、一部のSSDメーカーがデータ移行に特化した特別バージョンを無償提供しています。
移行用ソフトを使う場合は、いったん新しい(移行先の)SSDを外付けする必要があります(※1)。別途、M.2 SSD用の外付けケースを用意しましょう。外付けケースには「SATA M.2用」と「NVMe M.2用」がありますので、移行先の規格に合ったもの選ぶ必要があります。
(※1)外付けしたSSDが移行用ソフトから認識されない場合は初期化が必要です。詳しくはマイクロソフトのサポート情報を参照してください
取り換えに合わせてリカバリー(OSの再インストール)をする場合は、リカバリーメディアが必要です。作り方はメーカーやモデルによって異なります。最近の「Windows 10」を搭載するパソコンでは、OS標準の機能で16GB以上の空き容量のあるUSBメモリ(※2)に「回復ドライブ」を作ることが多いです。この方法で作成する場合は、「システムファイルを回復ドライブにバックアップします」のオプションを忘れずに付けてください。
(※2)プリインストールソフトウェアが多い場合は16GB超の容量を求められることがあります。回復ドライブに必要な空き容量は、本体の取扱説明書やサポートサイトなどで確認してください
以上のポイントを踏まえて、ノートパソコンへの換装におすすめのM.2 SSDを5つ紹介します。
キングストンのSATA接続M.2 SSDです。容量は120GB、240GB、480GBの3種類で、税込み実売価格は120GBモデルが3000円程度、240GBモデルが4500円程度、480GBモデルが7000円程度です。
連続読み出し速度は毎秒500MB、連続書き出し速度は120GBモデルが毎秒320MB、240GBモデルが毎秒350MB、480GBモデルが毎秒450MBと、SATA接続としては若干遅めではあるものの、価格は非常に手頃です。
サムスン電子のSATA接続M.2 SSDです。容量は250GB、500GB、1TB、2TBの4種類で、税込み実売価格は250GBモデルが7000円前後、500GBモデルが8000円前後、1TBモデルが1万7000円前後、2TBモデルが3万6000円程度です。
この製品は連続読み出し速度は毎秒550MB、連続書き込み速度毎秒520MBで、SATA規格の限界を攻めていることも特徴です。
同社のSSDは多くのパソコンメーカーにおいて標準搭載されており、ある種の“定番”です。SATA接続の製品としては若干値は張りますが、安定性と性能を重視する場合はイチオシです。
キオクシア(旧:東芝メモリ)のエントリークラス向けNVMe M.2 SSDです。容量は250GB、500GB、1TBの3種類で、現時点ではAmazonで限定販売されています。税込み販売価格は、250GBモデルが7980円、500GBモデルが5980円、1TBモデルが1万2480円です。
連続読み出し速度は毎秒1700MB、連続書き込み速度は250GBモデルが毎秒1200MB、他のモデルが毎秒1600MBです。
同社のSSDもサムスン電子のものと同様に多くのパソコンメーカーにおいて標準搭載されてきましたが、2020年6月30日から“ようやく”一般ユーザー向けの販売が始まりました。NVMe規格のM.2 SSDとしては読み書き速度は若干控え目ですが、「そこそこの速度が出て、価格も手頃な国内メーカー製SSDがほしい」という人にはおすすめです。
なお、このSSDには「EXCERIA PRO NVMe SSD」という上位モデルもあります。より高速な国内メーカー製SSDを希望する場合は、こちらもおすすめです。
IntelのミドルレンジNVMe M.2 SSDです。容量は128GB、256GB、512GB、1TB、2TBの5種類があり、税込み実売価格は128GBモデルが6200円前後、256GBモデルが9300円前後、512GBモデルが1万4000円前後、1TBモデルが2万6000円前後、2TBモデルが5万2000円前後です。
連続読み出し速度は128GBモデルが毎秒1640MB、256GBモデルが毎秒3210MB、その他のモデルが毎秒3230MB、連続書き込み速度は128GBモデルが毎秒650MB、256GBモデルが毎秒1315MB、その他のモデルが毎秒1625MBとなっています。
特に256GBと512GBモデルは、性能と価格のバランスが非常に良いことで知られています。消費電力も抑えめなのでノートパソコンに最適なSSDの1つです。
ただし、2TBモデルの基板は両面実装なので、ノートパソコンに搭載する場合はM.2スロット回りのすき間に余裕があるかどうか確認してから購入するようにしましょう。
ウエスタンデジタルのSanDisk(サンディスク)ブランドのハイエンドNVMe M.2 SSDです。容量は500GB、1TB、2TBの3種類で、税込み実売価格は500GBモデルが1万1000円前後、1TBモデルが2万2000円前後、2TBモデルが4万4000円前後です。
連続読み出し速度は毎秒3400MB、連続書き込み速度は500GBモデルが毎秒2500MB、1TBモデルが2800MB、2TBモデルが2900MBとなっています。
価格は高めですが、当然ながらその分読み書き速度は高速です。動画編集など、大容量なデータを高速に読み書きしなければならない用途で使っているノートパソコンにおすすめです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.