車体が軽い、車検なし、高速道路通行可能などメリットの多い「250ccクラス」のバイク。中でもカウリングを持たないオーソドックスなスタイリングの「ネイキッド」と呼ばれるジャンルが人気を集めています。2023年5月現在、新車で販売されているモデルと、それぞれの魅力について紹介しましょう。
モーターサイクル&自転車ジャーナリスト。短大卒業後、好きが高じて二輪雑誌の編集プロダクションに就職し、6年の経験を積んだのちフリーランスへ。ニューモデルの試乗記事だけでもこれまでに1500本以上執筆し、現在進行形で増加中だ。また、中学〜工高時代はロードバイクにものめりこんでいたことから、10年前から自転車雑誌にも寄稿している。キャンプツーリングも古くからの趣味の一つであり、アウトドア系ギアにも明るい。
ネイキッドには「裸の」や「あるべき覆いがない」などの意味があり、バイクの世界ではカウリング(カウル)のないスタンダードなモデル全般を指します。もともとは、1980年代に巻き起こった熱狂的なレーサーレプリカブームのカウンターカルチャーとして誕生したもので、1990年代に入るとネイキッドブームがやってきました。現在定番モデルとなったネイキッドは、幅広い層に支持されています。
ところで、市販車として初めてフルカウリングを採用したのは、1976年に発売されたBMWの「R100RS」というモデルです。これはレーサーのように速く走るためというよりも、ライダーが受ける風圧を減らすためのもので、その効果は絶大でした。つまり、それ以前のバイクにはカウルがないので、エンジンやサスペンションなどの機能パーツがそのまま見えるのが当たり前でした。昨今のネイキッドは、そうした往年の伝統的なスタイリングを模したものから、近未来を先取りしたようなものまでさまざまです。
250ccクラスのネイキッドバイクは、車検がなく、高速道路が通行可能などメリットの多い排気量だけに、特にホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの国内4メーカーが注力しています。
多くのネイキッドは、コストを削減するためにカウリング付きモデルと同時に開発されているケースが多く、ネイキッドの方が2kg前後軽いのが特徴です。実際に乗り比べてみると、カウリングがないので曲がる方向への操縦が軽く、まるでコートを1枚脱いだかのような軽快感があります。
一方、ライダーが受ける風圧は強く、高速道路を長時間移動したときの疲労度に差が出ます。とはいえ、純正アクセサリーやアフターパーツメーカーから、風圧を減らすためのスクリーンやミニカウルが発売されているので、気になる場合はそれらを試してみるのもよいでしょう。
今回紹介する5機種は、エンジン形式の違いにより単気筒と2気筒に大別できます。単気筒モデルは価格が安く軽量です。対して2気筒はハイパワーなことが魅力ですが、どうしても高価で重くなります。どちらにも長所と短所があるので、じっくりと選んでください。
ホンダは、1950年代から高性能スポーツモデルに“CB”という車名を使っており、現在250ccクラスで唯一その名を受け継いでいるのが「CB250R」です。エンジンは最高出力27psを発揮する水冷単気筒で、車重は今回紹介する5機種の中で最も軽い144kgを公称します。
丸型1灯というトラディショナルな形状のヘッドライトを採用しながら、凝縮感のあるダイナミックなスタイリングは近未来的でもあります。路面追従性に優れるショーワ製の倒立式フロントフォーク「SFF-BP」や、250ccクラスでは珍しい高価なラジアルタイヤを採用。その走りはライトウェイトスポーツそのもので、バイクを意のままに操れる快感があります。
ABSについては、IMU(車体姿勢推定システム)を採用した高性能なもので、これも安心材料の1つです。タンデムシートが小さいのでたくさんの荷物を積むには工夫が必要ですが、純粋にバイクとの対話を楽しみたい人にとってはベストな選択となるでしょう。
フルカウルスポーツの「YZF-R25」と基本設計を共有するネイキッドが「MT-25」です。MTという車名は「マスター・オブ・トルク」が語源となっており、シリーズを通じてエキサイティングな世界観をスタイリングで表現。搭載されているエンジンは、最高出力35psを発揮する水冷並列2気筒で、低回転域では扱いやすく、7000rpm以上でパワフルに吹け上がるという特性があります。特徴的なフロントマスクは、小型LEDヘッドライトとアイライン風のポジションランプで構成されており、MTシリーズらしい先進的なイメージを演出しています。
車重は167kgと今回紹介している5機種の中で最も重いのですが、走り出してしまうとハンドリングは軽快で、そこまでの重さを感じません。防風効果をプラスするスポーツスクリーンや、積載力を高めるリアキャリアなどが純正アクセサリーで用意されているのもポイントで、ロングツーリングにも使いたい人には魅力的な1台となるはずです。
水冷でも空冷でもなく積極的にエンジンオイルを冷却に使う、スズキ独自の油冷単気筒エンジンを搭載する「ジクサー250」。「ジクサーSF250」というフルカウルスポーツと基本設計を共有しています。最高出力は26psなので、同じ単気筒ながら水冷のホンダ「CB250R」より1ps低いですが、このエンジンの魅力は燃費の良さです。実際の燃費に近いと言われるWMTCモード値は、ヤマハの「MT-25」がガソリン1Lで25.8km走るのに対し、「ジクサー250」は34.5kmも移動できます。しかも、単気筒なので車重が154kgと軽いですし、ラジアルタイヤを装着しているので、ハンドリングもスポーティーで侮れません。
2023年モデルは新排ガス規制適合に伴い車両価格が3万3000円アップしましたが、それでも250ccのバイクが50万円を切っているのは驚きです。グラマラスなスタイリングは存在感があり、安っぽさはみじんもありません。ぜひショップに実車を見に行ってみてください。
ホンダの“CB”と同様、カワサキにも1970年代から“Z”という伝統の車名が使われています。近年は“Sugomiデザイン”というワードでZシリーズのイメージ共通化を図っており、スーパーネイキッドとして人気を集めています。
「Z250」は、「ニンジャ250」というフルカウルスポーツと基本設計を共有しており、最高出力35psを発揮する水冷並列2気筒エンジンを搭載しています。このエンジンは、5000〜7000rpmの間でフワッとトルクが盛り上がったあと、1万rpmを超えてからさらにもう一伸びするという回転数ごとの表情の変化が豊かで、乗っていて飽きることがありません。
ハンドリングについては、ただ単に乗りやすいだけでなく、操縦の仕方によってより高い旋回力が引き出せるなど、奥行きの深さも持ち合わせています。2気筒なので価格の高さと車重の重さがネックですが、値段以上の楽しさや価値を秘めているのは間違いありません。
最後に外国車枠からおすすめしたいのは、スウェーデン発祥のハスクバーナというメーカーの「スヴァルトピレン250」です。現在はオーストリアのKTM傘下にあり、ベースとなっているのはKTMの「250デューク」というネイキッドモデル。エンジンは水冷単気筒ですが、最高出力は2気筒に迫る31.3psを発揮します。高回転域まで快活に吹け上がる一方で、低回転域では2000rpmから実用域として使えるほどフレキシブルで、日本車との違いを見せつけてきます。
ハンドリングは、動きの良い前後サスペンションとグリップ力の高いタイヤにより安定性が高く、コーナリングでステップを接地させるほど寝かせても、車体にはまだ余裕があります。価格は高めになりますが、日本車にはない個性的なスタイリングにハートを打ち抜かれる人は少なくありません。シート高がだいぶ高いのですが、それも含めて世界観が個性的な1台です。
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