ブックレビュー(2000年1月)

Windows 2000ハンドブック システム導入編

著者:Morten Strunge Nielsen
翻訳:QUIPU LLC
価格:4800円
体裁:B5版 608ページ
付録:なし
ISBN:4-7561-3320-7
発行:株式会社アスキー
発行日:2000年1月21日


 今月に入って,国内の各版元からWindows 2000関連の書籍が続々と発売されている。このタイミングで刊行されていることからもわかるように,ほとんどの書籍はBeta3を元に米国で執筆され,RC2またはRC3を元に翻訳されている。厳密に見ると,製品版に基づく情報であるかどうかという点は,ネットワーク管理者やシステム管理者にとっては非常に重要な意味を持つはずである。特に,製品版でログオンフローなどを検証しない限り,ディレクトリの物理設計を決定することは難しいことだろう。にもかかわらず,加速するビジネス環境(版元の出版競争?)がそのような滞留を許さないことも事実である。

 さて,本書は1999年に米国Coriolisから刊行された書籍『Windows 2000 Server Architecture And Planning』の翻訳書にあたる。日本国内で同時期に刊行された書籍のなかでは,最も技術的に踏み込んだ記述が多く,ネットワーク管理者やシステム管理者がActive Directoryドメインの概要を理解するには適切な選択肢となると思われたので,ここでは本書を紹介することにした。

 全体は4部で構成されている。「第1部 システムの概要」では,Windows 2000が登場した背景と製品概要をかいつまんで紹介している。「第2部 Windows 2000のプランニング」では,ディレクトリサービスの概要,Active Directoryの概要,Active Directoryの構成要素,目的別のディレクトリ設計指針,DNSの設計,ドメイン構造の設計,ユーザーとグループの設計,ドメインツリーとフォレストの設計,物理構造の設計が各1章ごとまとめられている。「第3部 実装とテスト運用」では,Active Directoryの実装,高度な機能やツールの利用,スキーマの管理,データベースサイズとレプリケーションの負荷について説明している。「第4部 現在のインフラストラクチャとの統合」では,Windows NT Server 4.0からの移行,Microsoft以外の環境との相互運用などに言及している。

 上記の構成を参照していただければわかるように,本書の内容はActive Directoryドメインの技術的な解説が中心となっている。ディレクトリの設計手順やDNSの設計なども比較的詳細に,かつ具体例に基づいて説明されているため,ディレクトリやActive Directoryをよく知らない管理者にとっては参考になる部分が多いだろう。

 ただし,「Windows NT Server 4.0でネットワークを構築している場合にドメイン統合をどう進めるか」,あるいは「組織内に存在する既存のディレクトリとどのように統合してゆくべきか」といった,前提的であるはずの記述が巻末に記載されているので,本書の順番どおりに読み進め,本書の手順に従って構築を進めればよいというものではないことは理解しておいてほしい。読者は,書籍全体を通読したあと,自分の環境に合わせて理解を掘り下げなければならない。また,全体に技術解説と概念解説が主体となっているため,「具体的にどう設定すればよいのか」という点は,あまり見えてこない。

 先にこのコーナーで紹介した『Windows 2000 Active Directoryドメイン構築ガイド』は,主にソリューションベンダなどを対象としていたために,純粋なネットワーク管理者やシステム管理者にとっては食い足らない部分も多かったはずである。その点,本書に対する充足感は期待できるだろう。ネットワーク管理の側面から見ると,本書では語られていない部分も多いのだが,今後『Windows 2000ハンドブックシリーズ』として,ネットワーク管理編,Active Directory編,システム構成編が予定されているそうなので,続編にも期待したい。

実森仁志

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