インターネットアプリケーション時代の企業ネットワーク再設計
アプリケーション形態の変革と物理ネットワークの再設計

ターミナルサービス型アプリケーション

 今日の企業ネットワークにおけるクライアントPCのほとんどは,Windowsベースとなっている。本稿の執筆時点における企業ネットワークの抱える大きな課題の1つが,「WindowsベースのクライアントPCをどうやって管理するのか」ということである。企業ネットワークにおいてクライアントPCを稼動させるためには,各種ソフトウェアをインストールしたり,複雑な設定をしたりする必要がある。しかし,このような作業はコンピュータの専門家ではないエンドユーザーの責任とされることが多く,このことはエンドユーザー部門の大きな負荷となるばかりか,障害対応を迫られるIT部門にとっても多くの時間を消費する業務となっている。このような問題を解決するため,Windows 2000には,OSをリモートインストールしたり,アプリケーションの導入を制御したりする機能が搭載されているが,それ以外にもアプローチを異にした解決方法がある。それは,ターミナルサービスを利用することである。

 ターミナルサービスを利用する場合,アプリケーションを動作させる基盤となるOSを含むすべてのソフトウェアはターミナルサーバー上で動作し,クライアントPCではTCP/IPとターミナルサービスクライアントだけを稼動させることになる。これによって,ソフトウェアのインストールや複雑な設定はターミナルサーバー側だけで制御すればよく,クライアントPCの管理コストは大幅に軽減されるのである。

 ターミナルサービス型アプリケーションの場合,クライアントPC上のマウスやキーボードの操作はターミナルサービスクライアントによってターミナルサーバーに送信される。するとターミナルサーバーは,受け取った操作指示に従って必要な処理を実行したあと,処理結果の画面イメージをターミナルサービスクライアントに返信する。このような仕組みのため,ターミナルサービス型アプリケーションでは,非WindowsプラットフォームでもWindowsのGUIをそのまま使用でき,エンドユーザーの操作性も損なわれることがない。

 また,ターミナルサーバー上では,前述のクライアント/サーバー型アプリケーション,三階層型アプリケーション,Webベース型アプリケーションのいずれもが動作するため,既存のアプリケーションをターミナルサービス型アプリケーションに移植することも比較的容易である。同じアプリケーション集中型であるWebベース型アプリケーションでは,提供できるGUIがWebブラウザで利用できるものに限定されるため,アプリケーションの移植には大きなコストが必要となる。この点を考えると,ターミナルサービス型アプリケーションの優位性を理解していただけるだろう。

Fig.1-5 ターミナルサーバーとターミナルサービスクライアントの通信処理
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 Windowsプラットフォームを基盤とするターミナルサービス型アプリケーションで発生する通信は,(1)クライアントPC(ターミナルサービスクライアント)とターミナルサーバーとのあいだで発生するRDP/ICAベースのリクエスト,(2)ターミナルサーバーとアプリケーションサーバーとのあいだで発生するDCOMベースのリクエスト,(3)アプリケーションサーバーとデータベースサーバーとのあいだで発生するSQLベースのリクエスト,などから構成される。ターミナルサービス型アプリケーションのトランザクションは,Webベース型アプリケーションと同様に,サーバーPCが属するネットワークの影響のみを受けることになる。また,ターミナルサービスクライアントとターミナルサーバーとのあいだを流れる通信は,4Kbps程度と比較的小さい。Windows 2000のターミナルサービスでは,画面上の変更部分だけをターミナルサービスクライアントに返信するといった改良が加えられており,健全な設計を施されたネットワークであれば,十分使用に耐え得るものとなるだろう。

Fig.1-6 ターミナルサービス型アプリケーションの通信処理(図版をクリックすると拡大可能)
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ターミナルサービスとMetaFrame

 ターミナルサービスは,もともとCitrix社が開発したWindows NTベースのマルチユーザー技術を基盤としている。Microsoft社は,この技術のライセンスを購入し,Windows NT Server 4.0, Terminal Server EditionとWindows 2000 Server上に実装しているのである。Microsoft社の提供するターミナルサービスでは,ターミナルサービスクライアントとして,Windows 2000,Windows NT,Windows 9x,Windows-based Terminalのみをサポートしているが,CitrixのMetaFrameでは,さらにMacintoshやUNIXなどもターミナルサービスクライアントとして使用できるようになる。

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