インターネットアプリケーション時代の企業ネットワーク再設計
アプリケーション形態の変革と物理ネットワークの再設計

SOAP

 執筆時点において,SOAP(Simple Object Access Protocol)の適用が大きく取り上げられている。SOAPは,IBM社やLotus Development社,Microsoft社などが推し進めているプログラム連動の規約である。HTTP(HyperText Transfer Protocol)をはじめとする標準プロトコルとXML(eXtensible Markup Language)とを組み合わせることで,OS非依存かつ言語非依存のプログラム連動を実現する。このことからも判るとおり,SOAPは企業ネットワークの設計に直接影響するものではないが,SOAPの台頭に伴ってコンピュータシステムは著しくインターネットに依存するようになるものと思われる。そのため,将来的なネットワーク像を描く場合,SOAPの知識は必須であり,コンピュータに係る者は誰しも,その概要を理解しておく必要があるだろう。

SOAPの概要

 インターネットでホームページを表示するために利用されている主要な技術は,2つある。1つはHTTP(HyperText Transfer Protocol)であり,もう1つはHTML(Hyper Text Markup Language)である。HTTPはブラウザとWebサーバーとのあいだで交わされる通信プロトコルの規約であり,HTMLはページ記述言語の規約である。ブラウザがWebサーバーに対してHTTPを用いて必要なページをリクエストすると,Webサーバーはブラウザに対してHTMLで記述されたページデータを送信する。このページデータを受け取ったブラウザは,HTMLを解釈し,画面を形成している。本稿の執筆時点において,HTTPとHTMLはOS非依存の規約であるといってよいだろう。実際,Windows,Macintosh,各種のUNIXをはじめ,様々なOS上で稼働するWebサーバーが存在し,様々なOS上で稼働するブラウザが存在する。どのOS上で動作するWebサーバーと,どのOS上で動作するブラウザを組み合わせても,原則的にそのページは問題なく表示される。

 このような魔法の種は,テキスト形式を利用している点にある。テキスト形式は,文字コードと,改行コードなどの制御文字から成るシンプルなデータ形式である。HTTPはテキスト形式をベースとしたプロトコルであり,HTMLもテキスト形式をベースとしたページ記述言語である。テキスト形式は,文字コードや改行コードの問題を除けば,すべてのコンピュータで同じように利用可能であり,すべての開発言語から操作することができる。仮に文字コードや改行コードが異なっていたとしても,テキスト形式であれば,容易に変換し,必要な形式に整えることができる。

 このように,HTTPとHTMLとを組み合わせて実現された,OS非依存かつ言語非依存のデータ公開方式を,プログラム連動に応用したのがSOAPである。HTMLは,人間が眺めるページを記述する言語であるため,プログラム間のインターフェイスとして利用するには適さない。そこで,HTMLの代わりにXMLを利用しようとしたのが,SOAPの原型である(SOAPは,HTTPという個別のプロトコルに依存する技術ではない。実際,SMTPなどと組み合わせ,メッセージルーティングの基盤として利用することもできる)。

 SOAPは,いわば「コロンブスの卵」的な技術である。SOAPのなかには,取り立てて新しいテクノロジは存在しない。しかし,SOAPが普及すれば,すべてのプログラムは対等にお互いを利用し合うことができる。すでに解説したとおり,IPv6の普及に伴って,TCP/IPをベースにすべてのコンピュータが対等に通信できる環境が整おうとしている。このような基盤上にSOAPが実装され,すべてのプログラムが対等に連動するようになれば,コンピュータの可能性は飛躍的に向上する。時代は今,大きく動こうとしているのである。なお,執筆時点におけるSOAPのバージョンは1.1であり,仕様の日本語訳がマイクロソフトのホームページに掲載されている(翻訳は,日本アイ・ビー・エムとマイクロソフトの社員が担当している)。興味のある読者は,お読みいただきたい。

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