インターネットアプリケーション時代の企業ネットワーク再設計
いまさら聞けない!?ネットワーク機器再入門

L1-HUB

 L1-HUBは,物理層に対応した機能を有するネットワーク機器である。一般にL1-HUBは,「シェアードハブ」,「リピータハブ」,「ダムハブ」などの名称で呼ばれている。

 L1-HUBは,ポート(ネットワーク機器のケーブル接続口)に受信したデータを,無条件にほかのポートに伝送する。つまり,1つの通信がL1-HUBの内部バスを占有するため,L1-HUBが受信したデータは隣接するネットワーク全体に伝播されることになる。その意味で,H1-HUBの動作は1本の通信線(例えば100BASE-5のイエローケーブル)と同様であり,接続されたノード間では同時に複数の通信を実施することはできない。

Fig.2-3 L1-HUBの通信動作
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Fig.2-4 L1-HUBの接続形態
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 ネットワークを構築する場合,エンドノードハードウェアをネットワーク機器に接続するだけではなく,ネットワーク機器同士を接続することも必要となる。このようにネットワーク機器同士を接続することを,「カスケード接続(Cascading Connection)」と呼ぶ。

 L1-HUBは,通信に際してデータを内部に蓄えることをせず,単純に流れてきたデータを電気的に送り出すだけである。そのため,L1-HUBをカスケード接続すると,エンドノードハードウェア間の距離が単純に遠くなってしまう。CSMA/CDでは,データを送信したあと,データの衝突を示すコリジョンが発生しないかどうかを監視する。一定時間内にコリジョンが受信されなければ,データが正しく送られたものとして,次のデータを送信する。カスケード接続の段数が多い場合,コリジョンの受信に遅延が発生するため,送信元はデータの衝突を正しく判断できなくなり,本当は衝突が生じているのに正しく送信されたものと誤認して次のデータを送信してしまう。これによってデータの欠損が発生し,データは正しく送信されなくなるのである。本稿の執筆時点におけるイーサネットでは,L1-HUBを4回まで通過することが保証されている。

 Windowsベースのネットワークでは,クライアントPCでファイルやプリンタを共有することも多い。つまり,企業ネットワークでは,サーバーPCとクライアントPCの通信だけでなく,クライアントPC同士の通信も発生する。このことでも判るとおり,ネットワーク設計の基本は,「ネットワークの全ノードが互いに通信できる環境を構築する」ことにある。2段以上のカスケードを許した場合,3段目に接続されたエンドノードハードウェア同士の通信が保証されない。L1-HUBを用いたネットワーク構築にあたっては,カスケードを1段に制限する必要がある。

Fig.2-5 カスケード接続と通過するL1-HUBの台数(図版をクリックすると拡大可能)
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 このようにL1-HUBは,ネットワークに大きな負荷を与え,ネットワークトポロジーにも制限を与える。本稿の執筆時点では,後述するL2-HUBの価格が低下し,L1-HUBと同等の価格帯になっているため,L1-HUBを新たに使用する必要はないだろう。

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