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日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)――ユーザー視点のIT投資効果測定「JUAS指標」を策定IT効果測定・評価サービス・レポート(5)(2/2 ページ)

『IT投資効果をどのように測るのか?』という企業の関心は非常に高い。そのようなニーズに応えるため、日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)は、IT投資効果を測定するための共通的な指標の策定を進めている。

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システムのタイプによって評価を考えることを提案


日本情報システム・ユーザー協会 専務理事 細川泰秀氏

 こうした企業の実態に対して、JUASでは、案件のタイプ別に評価することを提案している。そのタイプとは、(1)グループウェアやネットワーク基盤などの「インフラ型投資」、(2)省力化や在庫削減、経費削減を目的とした「業務効率型投資」、(3)商品力や営業力、IT投資などが複合的に効果をもたらす「戦略型投資」の3つである。JUAS専務理事の細川泰秀氏は、「インフラ型投資は、他社とのベンチマークが有効であり、業務効率型投資は、ROIをベースに2〜3年で回収することを目標とすべきだ」と提言する。

 IT投資に関して企業が最も頭を悩ましているのが、戦略型投資の評価だ。戦略型投資は、IT投資だけで成り立っているものではない。しかも、稼働後にすぐ効果が見えるものではない。とはいえ、IT投資がかかわらない戦略的投資は考えられないし、今後、戦略型投資が増えることは間違いない。JUASが戦略型投資の測定手法として提唱するのは、(1)KPI、(2)ユーザー満足度、(3)ROI(ROEを含めて収益性を考える)、(4)対売上高比率で測定することである。

 JUASでは、日本企業や欧米企業のIT投資研究を踏まえて、JUAS指標をまとめている。この指標は、(1)IT投資評価モデル、(2)ITコストモデル、(3)IT健全性、(4)IT満足度などを定義し、企業がIT投資を実行する際の指標として利用できることを目指して作成された。

 IT投資評価モデルは、ITを以下の8つの価値によって評価することを打ち出している。

  1. 事業戦略/事業計画
  2. 知的・情報資産価値
  3. ITシステム価値
  4. 財務価値
  5. 顧客価値
  6. パートナー価値
  7. ビジネスプロセス価値
  8. 人材スキル価値

 そして、実際に企業が自身のIT投資を評価するための尺度がIT健全性である。IT健全性は、(1)アプリケーション開発、(2)ITインフラ装備率、(3)情報システム運用サービス、(4)ITインフラコスト単価の4つの項目から構成されている。各項目には、さらにサブ項目が設定されている。例えば、アプリケーション開発のサブ項目として、(1)新規アプリケーションコスト比率、(2)アプリケーションSE効率、(3)アプリケーション開発コストが設けられている。

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 現在、JUASは、IPAに設置されたソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)と協力して、項目ごとに企業とITベンダ双方の声を聞いて指標となるデータを明示する作業を進めているところである。細川氏は、「データを盛り込んだ指標が完成するのは2〜3年後」と語る。しかし、現段階でも、「JUAS指標の考え方は100%使える」(細川氏)という。

 JUAS指標をどう使うのか。例えば、工期短縮というテーマを考えてみよう。企業のトップは、工期の短縮を求め、IT部門やITベンダは品質に不安を持ちながらも、工期短縮を目指すというのが一般的な傾向だ。指示を受ける側は、「気合い」で「できます」と答えているのが現状だ。

 それに対して、JUASモデルは、定量化した尺度で話し合いをすることを推奨している。そして、その尺度自体はすでに報告書に盛り込まれているのである。「開発工期は、投入工数の立方根の2倍」。これが、開発工期の目安となる尺度である。これに従えば、1000人月のプロジェクトは、20カ月間かかる。求められる工期が3割の短縮ならできる可能性はあっても、5割の短縮は難しい。JUAS指標を利用すれば、数値に基づいてそんな議論や判断が行えるようになるだろう。

データを収集して評価のメジャーメントを拡充

 今後、JUASはIPAのSECとともに、企業とITベンダ双方からヒアリング調査を行い、アプリケーションソフト開発について実際のデータを提示したいとしている。まず、明らかにするのは、「投入工数と人月の関係」(細川氏)だという。

 具体的な項目は、企業が特に関心の高い(1)品質、(2)生産性、(3)価格の3点。品質については、開発の工程ごとにレビューの時間とバグの関係を調べて、その関係性を整理する。また、各項目とユーザー満足度の関係もデータとして提示したいという。データが整えば、企業はソフト開発における工数や費用の実態を把握できるとともに、ベンチマークが容易に行えるようになると期待される。

 企業が高い関心を持っている戦略的なIT投資の品質のカギを握るのは、アプリケーションソフトの出来具合だ。いいソフトを作るための手法として細川氏は次の3点を挙げる。

  1. 優れたパッケージソフトを購入する
  2. 開発プロセスの最適化を図る
  3. 評価のメジャーメントを策定してソフトを評価する

 企業が取るべき手法は、1でも2でもいいと細川氏はいう。メジャーメントがしっかりできていれば、どちらの手法を取っても狙いどおりのシステムを手に入れることができると考えるからだ。

 今後、データが収集され、分析されることによってJUAS指標は、IT投資を考えるうえでより具体的なよりどころとなると期待される。これまで、IT投資の評価方法については、コンサルティング会社を中心に提案がなされてきた。それに対して、JUASの取り組みは、ITユーザーの視点でIT投資の評価モデルを策定するという点で注目される。ちなみに、「報告書」はJUASから購入できる。

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著者紹介

小林秀雄(こばやし ひでお)

東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌「月刊コンピュートピア」編集長を経て、現在フリー。企業と情報技術のかかわりを主要テーマに取材・執筆。著書に、「今日からできるナレッジマネジメント」「図解よくわかるエクストラネット」(ともに日刊工業新聞社)、「日本版eマーケットプレイス活用法」「IT経営の時代とSEイノベーション」(コンピュータ・エージ社)、「図解でわかるEIP入門」(共著、日本能率協会マネジメントセンター)、「早わかり 50のキーワードで学ぶ情報システム『提案営業』の実際」(日経BP社刊)など


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