IT投資の重要性は、つとに語られている。その適用範囲も広がっており、逆にどこから手をつけるべきか、判断することが難しくなっている。今回は、幅広い視野から生まれるヴァンテージ・コンサルティングのプログラムを紹介しよう。
IT投資の重要性は、企業の経営層に浸透してきた。そして、企業の企画部門やIT部門のスタッフの多くが、いま何をすべきかを把握している。しかし、ヴァンテージ・コンサルティング
ディレクターの野田勝義氏は、「優先順位が付けられない」ことが多くの企業が抱える問題だと指摘する。
つまり、したいこと、するべきことは見えているのだが、どこから手を付けるべきかの判断が下せないのが企業の現状だ。そこで、第三者の視点で「優先順位を付けてあげること」が求められている。野田氏は、それこそが自社のミッションだと述べる。そのミッションを提供するためのフレームワーク、同社の「戦略的IT投資マネジメントプログラム」である。
戦略的IT投資マネジメントプログラムの基本プロセスは図1に示したように、IT診断から始まり、IT評価へ至り、改善するためにIT診断に戻るという継続的なPDCAサイクルで行われる。まず、そのプロセスの中身を概観しておこう。
IT診断のフェイズでは、企業のIT投資の現状を把握する。具体的な把握領域は、現状のITコスト、IT資産、ITマネジメントである。次に、企業が取るべきIT戦略を立案するとともに、IT戦略の実行に不可欠なITガバナンスを策定する。その次のステップで、情報システムを構築するとともに、IT投資プロセスを組織として実行する仕組みであるITガバナンスの定着を支援する。情報システムが運用フェイズに入った段階で、情報システムとITガバナンスの両者が効果を上げているかどうかを評価し、課題があれば改善するためのIT評価を行う。以上が、ヴァンテージのIT投資マネジメントプログラムの流れである。
同社のプログラムの1つの特徴は、企業が行うべきIT投資の内容を導き出すに当たり、最初にその企業がいまどの段階(ステージ)にあるのかを考えることにある。同社では企業のIT活用のステージを、(1)コスト削減のステージ、(2)IT資産最適化のステージ、(3)売り上げ向上のステージ、というように3つに区分している。IT戦略立案の起点となるのは、その企業が現在、どのステージにいるかを
把握することである。
企業が何よりもしたいことは、売り上げの向上・利益の拡大である。SCMシステムの構築によって、過去に失っていた売り上げ機会をなくすことができれば、その分、売り上げ向上が期待できる。だが、多くの企業は、その前にするべきことがあるというのがヴァンテージの指摘である。それは、第1ステージのITコストの削減であり、第2ステージのIT資産の最適化だ。
その目的は、新たなIT投資の原資を生み出すことにある。これまで、企業は必要なときに必要なものに対してIT投資を行ってきた。しかし、IT投資が全社レベルの投資に切り替わりつつある今日、個別に投資してきた情報システムは、逆にITランニングコストを増大させ、新たなIT投資を圧迫させ始めている。企業が効果的なIT投資を行っていくためには、無駄なコストを削減し、そこで生まれた原資を効果的な投資へ配分していく必要がある。
ソフトウェアやハードウェアなどのIT資産の最適化も、不良資産を減らして効果的なIT投資を行うことが目的だ。それができて初めて、売り上げ向上のための情報システム構築に着手すべきだというのがヴァンテージの考えである。
中には、「すでにITコストの削減はできている」「不良資産はもうなくした」という企業が存在するかもしれない。そういう企業は、売り上げ向上という第3のステージへ向かうことができるわけだが、大半の企業はそうではない。新たなIT投資を行う前にすべきこと。それを企業の経営層にあらためて認識させるのが同社のプログラムの特徴といえる。
では、ITコストを削減できたとしよう。そして、IT資産も最適化できたとしよう。次にやるべきことは、「利益を生み出す」ためのIT投資である。ところが、そこで経営者は悩む。企画部門やIT部門から上がってくる、いくつものシステム化案件のうち、どれが重要であり、どれを実施すべきなのか──投資の優先順位を決めることは困難なのである。
ヴァンテージでは、そんな経営者・意思決定者に向けて、「重要性」と「実現性」の2つの軸で示したマップを提示する。重要性の高い案件とは、例えば投資対効果の高いもの、緊急性の高いもの、戦略性の高いものなどである。実現性とは、技術的な難易度、案件にかかわる人員の多寡などが尺度となる。重要性と実現性を軸に各案件を位置付けると、優先度の高い案件が可視化される。いますぐに取り組むべきことと、そうでないものとが経営者の目の前に示されるわけである。
例えばこの図であれば、プロジェクトBやHは実施すべき案件であり、Cは重要ではあるが実現には困難が付きまとうということが一目瞭然となる
重要性と実現性の2つの軸で優先順位を示すこのアウトプットは、極めて単純明りょうだ。だが、そこへ至るまでの作業が簡単だということではない。優先順位のマッピングには、さまざまなノウハウが盛り込まれている。
ヴァンテージは、マイクロソフト日本法人社長を務めた成毛眞氏が率いるインスパイアグループの1社。設立は2002年12月とまだ若い会社だ。だからこそというべきか、「金融、製造、流通、公共、開発などのITスキルを持つヴァンテージのメンバーとマーケティング、ファイナンス、特許などの能力を持つインスパイアグループとの連携により、多様な視点での解決策を提言する」(野田氏)。企業が抱える課題は、「ITだけの視点で解決できない」(同)。その際に役立つのは、同社内で日常的に行われている多様な視点に基づくディスカッションなのだという。
ITの投資テーマというと、SCMシステムやERPパッケージなど、ITという1つの枠組みで考えがちだ。それは、とかく「ソリューションありき」の発想を伴っている。「弊社の場合、IT導入することを目的とせず、やるべきことは何かを提案できる強みがある」(野田氏)
いわばヴァンテージの特徴は、複眼さらには複々眼で課題と向かうべき方向を示すことにある。多様な視点でも経営を考えている経営者といえども、すべての視点に通暁しているわけではない。財務のプロだったり、人事のプロを経て、経営者への階段を上ってきている。さまざまな視点で経営を考えたい経営者をサポートするのは、多様な視点
を持つ同社のチームだ。
では、「利益を生み出す」案件の優先順位を決定し、それを情報システム構築し、運用するフェイズに入ったとしよう。そこで、重要となるのは、ITガバナンスを定着することである。IT診断から始まり、IT評価に至り、またIT診断を始めるPDCAサイクルを企業が自分自身で実行すること。それが、ITガバナンスである。ヴァンテージは、それを支援する。
環境が変われば、企業がいますべきことの内容や方法、組織を見直すことが必要となる。企業には、眠っている能力や埋もれている個人知が多々ある。それを可視化し、組織の知とする。それができることが、第三者の存在意義だと同社はいう。
同社のIT投資マネジメントプログラムは、企業のステージを見極めて、いますべきことはコスト削減か、売り上げ向上かを明らかにする。さらに、売り上げ向上のステージでも、案件の優先順位を示す。さらには、企業自身がIT投資プロセスのPDCAを回せるように支援する。企業のIT投資に関して包括的なコンサルティングサービスを提供する。ITの視点だけではない多様性を持つチームが包括性をもたらしている。
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小林秀雄(こばやし ひでお)
東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌「月刊コンピュートピア」編集長を経て、現在フリー。企業と情報技術のかかわりを主要テーマに取材・執筆。著書に、「今日からできるナレッジマネジメント」「図解よくわかるエクストラネット」(ともに日刊工業新聞社)、「日本版eマーケットプレイス活用法」「IT経営の時代とSEイノベーション」(コンピュータ・エージ社)、「図解でわかるEIP入門」(共著、日本能率協会マネジメントセンター)、「早わかり 50のキーワードで学ぶ情報システム『提案営業』の実際」(日経BP社刊)など
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