IT投資評価方法には、企業全体のバランスで考えるBSC系のものやプロジェクト管理系のEVMなどがあるが、他社との関係──相対評価も気になる。今回は自社がどういうIT活用レベルにあるかを判断できるスクウェイブのSLRを取り上げる。
経営や業務などの改善手法に、ベンチマーキングがある。IT活用能力レベルやIT投資の妥当性を計測するのにも活用できる。しかし、指標(ベンチマーク)を計測・策定するのは簡単ではないし、自社のスタッフによる評価は主観的になりがちだ。
それに対して調査会社やコンサルティング会社という第三者が行うベンチマークは比較的客観的で、経営者やシステム部門にとって、自社のIT投資の適切さを客観的に把握しやすいものだといえる。
スクウェイブのサービス・レベル・レイティング(SLR)も、ベンチマークによってITコストの妥当性を可視化する手法だ。同社の黒須豊社長は、「SLRは、ユーザー自身がITコストの妥当性を判断できるようにするインフラサービスである」と語る。SLRは従来のベンチマークと異なるという。その違いは次の点にまとめられる。
黒須社長によれば、従来のベンチマークは、コンサルティング企業なりITベンダが過去にコンサルティングした企業の平均値とクライアント企業のデータを比較することが一般的だという。しかも、コスト比較の指標やコスト算出手法はブラックボックス化されており、クライアント企業には見えない。この方法において、ITコストの妥当性を判断する主体はコンサルティング会社である。
それに対して、スクウェイブは、「ユーザー企業が自分で判断できる環境を用意する」(黒須社長)という立場を取る。そのために同社では、比較するコスト指標とコストを算出するための基礎データの項目を公開している。
指標の例を挙げると、開発コストに関する指標はファンクションポイント(FP)当たりのコストおよび人月であり、収集する基礎データはFP数やステップ数、開発期間、開発人月単価、工程別人月数、開発トータルコストという具合である。企業には、何に基づいてITコストを算出するかがあらかじめ示されているわけである。
また、データの同時性もITベンチマークでは重要なポイントだという。ITの変化は急速だ。数年前のデータと比較しても参考にならない。例えば、Java技術者の単価を取ってみても、1年前に比べて現在では3分の2程度と下がっている。一方で、不足しているリソースの単価は高い。ITコストの妥当性を測るうえで「データの同時性」は重要なポイントとなる。同社では、同時期のデータに基づく比較をしたいというのはユーザーの声でもあると語る。
同社のSLRの場合、ベンチマーク参加企業を30社募集し、同時期のデータを収集して比較して報告書を作成する。2005年2月の時点でほぼ募集社数に達しており、6月ごろに分析結果をまとめる計画だ。すでに、銀行、飲料、薬品、金属など幅広い業種の大手企業が参加を申し込んでおり、データの収集・分析作業が行われている。ちなみに、30社という社数は統計的に意味があり、かつ同社のスタッフが対応できる範囲の数だという。
SLRの参加費用は300万円。黒須社長はその値付けを「価格破壊的」と述べる。ベンチマークの見積もりを取れば、1000万円以上になるという。その低料金の理由は、30社を一度にベンチマークするスケールメリットにあるという。
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小林秀雄(こばやし ひでお)
東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌「月刊コンピュートピア」編集長を経て、現在フリー。企業と情報技術のかかわりを主要テーマに取材・執筆。著書に、「今日からできるナレッジマネジメント」「図解よくわかるエクストラネット」(ともに日刊工業新聞社)、「日本版eマーケットプレイス活用法」「IT経営の時代とSEイノベーション」(コンピュータ・エージ社)、「図解でわかるEIP入門」(共著、日本能率協会マネジメントセンター)、「早わかり 50のキーワードで学ぶ情報システム『提案営業』の実際」(日経BP社刊)など
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