プロジェクト管理技法はなぜ徒労に終わるのか?:やる気を引き出すプロジェクト管理(1)(2/2 ページ)
昨今PMBOK、EVMSといったプロジェクトマネジメント技法が注目されている一方、それらを自社のプロジェクトに適用しても効果が上がらなかったという声も多い。これらの技法を有効活用するには、まずプロジェクトマネジメントの“本質”を理解する必要があるのだ
プロジェクトマネジメントとは一体何か?
では、プロジェクトマネジメントの本質を理解するにはどうすればよいのでしょうか? それにはまず、「プロジェクトマネジメントとは何か」を知る必要があります。
中国の有名な兵法家、孫子は「敵を知り、己を知らば、百戦して危うからず」という言葉を残しています。私たちもそれに従いましょう。敵はプロジェクト、己は私たちです。
まずは簡単な質問です。
「プロジェクトマネジメントとは、一体何をすることなのでしょうか?」
少し考えてみてください……、答えは出ましたか?
この問いに即答できるプロジェクトマネージャの方は、相当優秀な方かもしれません。幾つか予想される回答例を挙げてみましょう。
- 品質の高い成果物をお客さまに納品すること
- プロジェクトの期限を守ること
- 予算内に成果物を完成させること
あるいは、プロジェクトマネジメント手法について少し勉強された方は、次のような回答をするかもしれません。
- 品質・コスト(予算)・納期を計画通りに収め、プロジェクトの目的を達成すること
これらの中に、果たして正解はあるでしょうか? 試しに、模範回答となるかもしれない幾つかの定義を以下に挙げてみましたので、ご覧ください。
「プロジェクトマネジメント」とは、プロジェクトの要求事項を満足させるために、知識、スキル、ツールと技法をプロジェクト活動に適用することである。
……PMBOK(PMI)
「プロジェクトマネジメント」とは、使命を達成するために有期的なチームを編成して、プロジェクトを公正な専門的手段で効率的、効果的に遂行して、確実な成果を獲得する実践的能力の総称である。
……P2M(日本プロジェクトマネジメント協会)
プロジェクトの目標を達成するために、プロジェクトの全側面を計画し、組織し、監視し、管理および報告すること、ならびにプロジェクトに参画する人々全員への動機付けを行うこと。
……ISO 10006(国際標準化機構)
……いかがでしょうか? これらを見て唯一いえることといえば、
「『プロジェクトマネジメント』という言葉の定義に、正解はない!」
ということぐらいでしょう。例えば、PMBOKにおいては「知識、スキル、ツールと技法を適用」と表現されている部分ですが、P2Mにおいては「公正な専門的手段で効率的、効果的に遂行」、ISO 10006においては「全側面を計画し、組織し、監視し、管理および報告する」と表現されています。どれも同じようなことをいっているようにも聞こえますし、まったく違うことをいっているようにも聞こえます。
そこで、こう考えてみてはいかがでしょうか。
「プロジェクトマネジメントは、その定義を自社で決めるところから始めなければならない」
極論すれば、プロジェクトマネジメントの定義は「プロジェクトの期限を守ること」でも、「プロジェクトのメンバーが気持ち良く働けるようにすること」でも、何でもいいということになります。「そんな無責任な」といいたくなるかもしれませんが、これが実際なのです。まずは、ここから出発してください。繰り返しますが、「プロジェクトマネジメントに正解なし」です。まずは、自社のプロジェクトに合わせて、どのようなマネジメントをしたいのかを決めなくてはいけないのです。
プロジェクトマネジメントの定義を行う
では、どうすれば「自社に合ったプロジェクトマネジメントの定義」が作れるのでしょうか?
ここで、もう1つ皆さんに質問してみたいと思います。
「マネジメント(管理)とは、一体何でしょうか?」
以下のように「管理」と付く単語はたくさんありますが、どれにも当てはまるように「管理」の意味を考えてみてください。
- 品質管理
- 生産管理
- 体重管理
- 資産管理
- 入国管理
- 危機管理
- マンション管理
- ……
よくよく考えてみると、「管理」とは具体的に何をすることなのか、意外とはっきりしていないことが分かるかと思います。試しに「管理」という語を辞書で調べてみても、「監督・管轄」「良い状態の維持」などといったことが書いてありますが、いずれも実務上の定義としては少し足りません。
そこでトーマツ イノベーションでは、「管理」とは、「成果」を定め、それを達成するために「仕事を設計」し、「計画(Plan)・実行(Do)・検証(Check)・対策(Act)」を行うこと、と定義しています。
分かりやすい事例で説明してみましょう。例えば「体重管理」の場合でしたら、成果は自分の体重を目標とする数値に近付け、維持することにあります。そのために食生活や、栄養摂取についての計画を立て、実際にその計画通りに実行します。さらに定期的に体重を測定し、計画通りの数値が出ないときは計画の見直しを行います。
プロジェクトマネジメントも、基本的にはこれと同じことを行えばよいのです。繰り返しになりますが、行うべきことは以下の3つです。
- プロジェクトの成果(目標・目的・狙いなど)の設定
- 仕事の設計(作業分解・作業フロー・スケジュール)
- PDCAサイクルを回す(マネジメント・サイクルの確立)
これらを図示すると、以下のようになります(図1)。
今回はここまでです。プロジェクトマネジメントとは一体何なのか、大まかなイメージはつかめたことと思います。
次回は、プロジェクトマネジメントの3つのタスク(成果の設定、仕事の設計、PDCA)それぞれについて、詳しく説明したいと思います。
筆者プロフィール
安達 裕哉(あだち ゆうや)
トーマツ イノベーション株式会社 シニアマネージャ
筑波大学大学院環境科学研究科修了後、大手コンサルティング会社を経てトーマツ イノベーション株式会社に入社。現在、主としてIT業界を対象にプロジェクトマネジメント、人事・教育制度構築などのコンサルティングに従事する。そのほかにもCOBIT、ITサービスマネジメント、情報セキュリティにおいても専門領域を持ち、コンサルティングをはじめとして、企業内研修・セミナー活動を積極的に行う。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.