仕事には、不確実性が付きものだ。未来を予知できない限り、プロジェクトの前途に潜むリスクをすべて把握することは不可能である。しかし、仕事の精度を上げることでリスクを減らすことができる。その具体的な方法とは?
前回「プロジェクトは、計画通りに進まなくて当然」で、プロジェクトマネジメントで最も重要な課題は以下の2点であると説明しました。
さらに、1つ目の課題の対応策として、大別して以下の5通りの方法があることをお話ししました。
前回は、上記5つの方法のうち1つ目と2つ目の対応策について説明を行いました。今回は、3つ目の対応策「『成果の設定』と『仕事の設計』の精度向上」について、実務上のポイントをお話ししたいと思います。
会社全体で成果の設定(仕様の確定)と仕事の設計(WBSとスケジュールの作成)の精度向上を図るには、具体的にどうすればいいのでしょうか?
「仕事のマニュアルを作成すればよい」という方もいれば、「プロジェクトマネージャの能力次第」という方もいるでしょう。ほかにも、さまざまなアイデアが考えられます。しかし、たまたま思い付いた施策を片っ端から試してみても、なかなか効果は上がらないでしょう。
そこで、以下の図をご覧ください(図1)。
上図にある通り、大切なのは以下3つの施策をバランス良く実施することです。
これら3つの施策のバランスに配慮しながら、精度向上を図っていくことが重要です。
具体例を挙げて説明しましょう。まず、以下の2つの仮想事例をご覧ください。
システムインテグレータA社が扱う案件は、その都度異なる仕様が求められるフルスクラッチ開発が主体です。
A社の自慢は、「技術者の腕」です。どんなに完璧な作業チェックリストや開発マニュアルを用意してもすべての技術者が同じ結果が出せるわけではないという考えから、とにかくすご腕の技術者を集めています。
同社では技術者個人の経験と知識に頼って開発が行われていきますから、マニュアルは重要なポイントのみを記載した簡単なものしかありません。
最近では、「人・案件によってスケジュールの精度が大きく異なる」ことが同社の課題になっています。
パッケージソフトの導入案件がビジネスの主体となっているB社は、業務が定型化されていることが強みです。
個人の経験や能力に依存する仕事を少なくするため、導入の段階ごとに詳細な手順書やマニュアル、記録様式が作成されています。それらに基づいて仕事を行うことで、誰が開発してもある程度同じような成果が提供できるような仕組みができています。
未経験者を採用してもすぐ現場に出せるため、会社の業績は好調で急成長中です。
しかし、最近は顧客から「カスタマイズ開発を行うとスケジュールが遅れる」とのクレームがあり、課題になっています。
先に挙げた仮想事例では、A社とB社はまったく異なる問題に直面しています。従って、それぞれの状況に合った形で「標準化」「個人の知識・経験の向上」「経験者のレビューを受ける」の3つの要素のバランスを考える必要があります。
例えば、A社のように個人の能力に依存して仕事を行っている場合、標準化を推進することにより相当の改善が見込めます。また、適切に内部・外部の経験者からレビューを受けることで、現状の客観的な見直しができます。
次のチェック表で、皆さんも自社のプロジェクトマネジメントの仕組みをチェックしてみてください。バランスが著しく偏っている場合は、改善することをお勧めします。
A社の例では、開発業務を個人の力量に頼っているため、プロジェクトが30人以上の規模になると管理・運営が困難になります。そのことが原因で、たまにプロジェクトが失敗して大赤字が出ています。よってA社の場合、精度を向上させるには、人・案件によるばらつきの解消、すなわち標準化が鍵となります。
一方、B社はパッケージのカスタマイズに対応できないことが原因で、問題が発生しています。よって、今後精度を向上させていくためには、現場要員がカスタマイズにきちんと対応できる知識・経験を付けることが鍵となります。
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