トラブルを報告したくなる風土を作る:やる気を引き出すプロジェクト管理(8)(2/2 ページ)
最終回は、プロジェクトのリスクマネジメントを中心に解説する。それにより、トラブルを未然に防ぐ方法と発生後の対処法の基本を学んでいく。
トラブルの予防
トラブルの予防には大きく分けてやるべきことが2つ存在します。「トラブルの発生前対策」と「トラブルの発生後対策」について、案を作成することです。
まずはトラブルの発生前対策案を検討し、前述のリスク一覧表に書き込みます。マネージャはこれを見て、プロジェクトのトラブルを予防すればよいわけです。
トラブルを予防するとは、次のようなことです(ここでは発生前対策を挙げます)。
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ここで重要なのは、前述のリスク一覧表の1つ1つのリスクに「トラブルの前触れの発見」という項目を設定した点です。
どんな有能なマネージャであっても、プロジェクト全体を隅々まで見張るのは無理があります。この方法であれば、極めて重要であると認識されたトラブルを集中的に監視することができ、プロジェクトマネージャの負担を軽減させることができます。
トラブルの発見・対応
さて、プロジェクトの開始の時点でリスクの予測と予防まで行っておけば、後はプロジェクトの荒海にこぎ出すだけです。想定外のことが起きないように祈るばかりですが、プロジェクトマネージャにはまだやるべきことが残っています。
それは、「プロジェクトのトラブルが発見されやすい風土作り」です。なぜでしょうか。
それは、想定外の出来事が発生したとしても、早期に発見できれば大抵のことは解決できるからです。プロジェクトが頓挫するような大きなトラブルも、最初は小さな予兆からなのです。
「それなら、早くプロジェクトのメンバーなどに報告させるルールを作ればよいじゃないか」といわれる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これはルールを作ればよいというものではないのです。進ちょくミーティングを週1回行うだけでは、トラブルを早期発見するには十分ではありません。
なぜでしょうか。下を見てください。「失敗学」で有名な畑村洋太郎氏は、『失敗学(図解雑学)』(畑村洋太郎著、ナツメ社刊)で、次のように述べています。
- 失敗の多くは、「情報伝達の途絶」で起こる(タテとヨコの情報断絶、「壁」)
- 部分最適が「全体最悪」をもたらす(これについては、、全体を知ってそれを踏まえて自分の仕事ができる社員を育てていくしかない
- 「管理の強化」では、失敗は防げない(管理強化一辺倒では形骸(けいがい)化しやすく、「面従腹背」が起こる、失敗を臆するようになるため、結局、いろいろな部門で同じような失敗が起こる)
つまり、ルールや仕組みで管理を強化するだけでは、トラブルの早期発見は難しいのです。それでは、どうすればよいのでしょうか。
答えは1つです。「プロジェクトマネージャにメンバーがトラブルを報告したくなる」雰囲気を作るしかありません。ポイントは3つあります。
- トラブルの報告に感謝する
- 自分から情報を取りに行くため、メンバーには自分から聞く
- いざというときにメンバーを守る(お客さまに怒られるのは自分の役目)
企業によっては、開発工程にチェックポイントを設け、トラブルを未然に発見できるように仕組みを作っているところもありますが、そのような仕組みはあくまでもメンバーからの報告の補助にすぎません。プロジェクトリーダーがメンバーから信頼されることが、最も有効なトラブル防止策となるのです。
筆者プロフィール
安達 裕哉(あだち ゆうや)
トーマツ イノベーション株式会社 シニアマネージャ
筑波大学大学院環境科学研究科修了後、大手コンサルティング会社を経てトーマツ イノベーション株式会社に入社。現在、主としてIT業界を対象にプロジェクトマネジメント、人事・教育制度構築などのコンサルティングに従事する。そのほかにもCOBIT、ITサービスマネジメント、情報セキュリティにおいても専門領域を持ち、コンサルティングをはじめとして、企業内研修・セミナー活動を積極的に行う。
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