薄型テレビ市場で躍進する東芝の液晶テレビ「REGZA<レグザ>」。最新モデルZ3500から商品コピーは「半導体のチカラが美しさを変える。実力のレグザ」とし、半導体のリーディングカンパニー東芝がついに自社の得意分野で液晶テレビの美しさのパラダイムシフトを打ち出してきた。その原動力となっているのは、独自ノウハウがつまった映像エンジン「メタブレイン」だ。その誕生背景や、最新の「パワー・メタブレイン」の開発コンセプトを紹介しつつ、“液晶テレビ最強”と評判の高い<レグザ>の、高画質の秘密を解き明かしたい。
2000年頃から始まったブラウン管から液晶・プラズマの時代への移り変わりにおいて、もっともテレビ市場で苦戦を強いられていたのは、おそらく東芝ではないだろうか。それまでに築いてきた自社製ブラウン管と独自回路による高画質テレビのノウハウにこだわった東芝は、ディスプレイデバイスのデジタル化の波に押しつぶされてしまった。
しかしその後、東芝はZ1000シリーズで復活を遂げ、まさに“躍進”というに相応しいシェア拡大を果たした。技術力がありながらも後塵を拝していた薄型テレビ市場で、今、東芝製テレビは<レグザ>ブランドのもとで地に足の付いた営業展開をしている。
この躍進のきっかけとなったのは、「メタブレイン」と名付けられた画像処理エンジンの開発だった。今回の記事では、「メタブレイン」が生まれてきた背景、そして最新の「パワー・メタブレイン」の開発コンセプトに触れ、なぜ東芝が液晶テレビの画質を高めることに成功したのかを追いかけていくことにしたい。
東芝が薄型テレビ事業において、やや出遅れてしまった最大の理由は、高画質にこだわるゆえの“取り組みタイミングの遅れ”だった。
2000年にBSデジタル放送が開始される機会を見計らい、東芝内部ではデジタル放送時代に高画質を実現するため、新しいシステムLSIを設計していた。それは「ヴァイタミン」「コンクエスト」と呼ばれるチップセットで、1998年に開発を開始し、東芝の初代BSデジタル対応テレビに搭載された。引き続き2000年秋からは、コードネーム「セーヌ」という「ヴァイタミン」「コンクエスト」を統合したLSIを開発し、それは東芝のFACE D2000シリーズに搭載された。
セーヌはデジタル放送に必要な処理回路を内包し、機能的にも性能的にも優れた業界でもトップクラスの映像回路だった。しかし、ハイビジョンブラウン管を対象に開発されていたため、フラットパネル向けには適していなかった。
その後、セーヌを用いて液晶テレビを開発したが、アナログデバイスの時のような画質を引き出すことができなかった。様々なアーキテクチャ上の問題もあったが、何よりアナログ的に繊細な画質調整を行おうにも、処理チップ、表示デバイスともに正確に絵作りを反映できるだけの能力、特性を持っていなかったためだ。
通常ならば、ここで慌てて新チップを開発するところだが、東芝は将来的な発展、他社に先んじた先進的な機能を備えるため、デジタル表示デバイスの時代に適した次世代映像エンジンの開発プロジェクトを起こした。それが「セーヌ2」――のちの「新メタブレイン・プロ」にメインプロセッサとして使われる、当時の家電向けとしては途方もない能力を備えたデジタルテレビ専用LSIだった。
たとえばセーヌ2は全高画質化処理ステージにおいて、映像データを14ビットで扱っており、内部処理では一部(色調整処理)には60ビット処理が導入されている。最近でこそ各ステージ間10ビット、ステージ内処理精度で12ビット精度といった処理チップも存在しているが、ほぼ完全な14ビット処理でアーキテクチャ全体を構成しているものはほかにない。処理ビット数の増加はLSIの規模増加に直結するからだ。
それでも14ビットという、元となる映像データ(8ビット)の64倍に相当する精度にこだわったのは、アナログ的に繊細な映像調整の結果が、階調性に悪影響を及ぼすことなく素直に結果として反映されるようにするためだったと当時のセーヌ2プロジェクト関係者は話していた。
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提供:株式会社東芝
制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2007年12月18日