なぜ4原色なのか? シャープ「AQUOS クアトロン」を読み解く本田雅一が徹底分析(2/2 ページ)

» 2010年06月14日 10時00分 公開
[本田雅一,PR/ITmedia]
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なぜ“イエロー”なのか

 自然の物体色のうち、BT.709で再現できない色の範囲は、実はシアン側の方が大きい。エメラルドグリーンに輝くサンゴ礁の海などが代表的な例だ。しかしシャープはイエローを選んだ。主な理由は、光の利用効率が上がること。つまり、より明るく省電力なテレビに仕上げることができる。液晶用バックライトの主流になってきている白色LEDの特性とイエロー画素のマッチングがとても良いためである。

 白色LEDのスペクトラムは下図のようになっている。RGBの液晶パネルでは黄色の部分は不要波となるのでカットされる(捨てられる)。またホワイトバランスを取るために、青の発光量を抑えて開発する必要もあり、LEDそのものの発光効率も悪くなってしまう。

photophoto 白色LEDのスペクトラムとRGBおよびRGB+Y使用時の透過光量。Yの追加により、利用できる光が増えたことが分かる

 しかしイエローの画素があれば、黄色のスペクトラムを有効に使えるばかりでなく、黄色が増えた分だけ、青色のピークをより多く取り出せるので、バックライトそのものの効率がアップする。イエローフィルター自体の透過率が高いことも、光の利用効率を上げる理由だ。

 単に光の利用効率を上げ、消費電力を下げたいだけならば、ホワイトの画素を追加する方式も効果はあるが、ホワイトを追加しても色再現範囲の拡大には効果がない。このため、省電力化と色域拡大の両方に効果のある黄色の画素を追加したという。

photo UV2A技術を採用した従来型(RGB)とクアトロン(RGB+Y)の違い。各サブピクセルの大きさが異なる点にも注目

 このほか3D化した際に映像が青っぽく見えることへの対策としても、黄色側の色再現域が広がる方が都合はいいのだが、こちらはまた別の機会に掘り下げてみたい。

4原色化の課題と対策

 色再現域が広がっても、「表示する元の映像はRGBなのだから、それは再現できないのでは?」と思う人もいるかもしれない。しかし、実は映像信号はRGBではなく、YUVの色空間で搬送されている。YUVという色の表現方法はRGBに変換すると表現できない色が出てくる。このRGBでは表現できない色域を活用しようというのが、x.v.Colorという技術だが、x.v.Colorに対応していない映像ソースでも未定義部分の色情報はある。

photo 鮮やかな黄色を表現できる“AQUOS クアトロン”(画面はハメコミ合成です)

 また画作りの範囲でも活用することはできる。明るく鮮やかな黄色、具体的には黄金に輝く物体などは、一般的なRGBのテレビではやや暗く沈んで見えてしまう。これはあらかじめ映像を製作する際に、色階調が失われないように再現範囲を圧縮して収録しているためだ。そこを拡張するように処理することで、黄色周りの色を元の色に近いところに持っていくことが可能になる。

 では、4原色化に課題はないのだろうか?

 原理的にいえば、従来は赤と緑の混色で作っていた黄色を、イエローフィルター一発で作ることができるのだから、効率が良いのは感覚的にも分かりやすい。しかし、デジタル技術で作るテレビには、また別の難しさがある。それがホワイトバランスの統一だ。

 クアトロンは、混色で作る色領域を可能な限り減らしている。RGBで作れる色の中から、イエローで置き換えられる分を差し替えていると言った方がいいかもしれない。この場合、混色で作った黄色とイエローフィルターを透過した色が完全に一致していればいいが、一致しない場合は問題が出てくる。

 つまり、実際に開発するとなると、明るさのレンジごとにホワイトバランスが微妙に揺れる現象が起きるのではないか? そうシャープのエンジニアに質問したところ、「全くその通り。ニュートラルなホワイトバランスを取れるかどうかが、この技術でもっとも難しい部分だった」との答えが返ってきた。

 画像処理のエンジン部分でも、デジタル処理による量子化誤差が大きいと、イエローを加える演算の部分で問題が発生するだろうし、イエローカラーフィルターの選び方も難しい。理論ほど簡単ではないのが、実際のテレビ開発だ。しかしシャープは、「ホワイトバランスに関しては、とても苦労したが、4原色でリニアでニュートラルなホワイトバランスが全階調で繋がるように作った。その部分は是非、実際の映像で確認してほしい」と自信たっぷりだ。製品発売時には、改めてチェックしてみたい。

液晶の枠を飛び出た抜けの良い色表現

photo 5月に行われた“AQUOS クアトロン”発表会の様子

 さて、実際の映像はどうだろうか。店頭やデモ会場ではなく、画質評価用の環境で“AQUOS クアトロン”「LX3シリーズ」の映像を見たが、当初心配していたようなホワイトバランスの不安定さは感じられなかった。また、ヌケの良い透明感ある発色は、従来のテレビにはあまり見られないもの。一方、イエローの追加により、リニアリティーの低下や不自然なグラデーション表現が生じるのではないか? といった心配は、すべて杞憂(きゆう)に終わった。

 そもそもUV2Aは、従来のASVに比べ、3原色パネルでも大きく進歩していた。明るさや黒の沈みによる広いダイナミックレンジの表現、視野角の広さ、階調特性の向上など、さまざまな点でVA型液晶パネルの枠を飛び出した液晶技術だった。それが4原色化により、明るさや色再現域の広がりという点でも優位になり、ほかの液晶テレビとはひと味違う映像を映し出した。

 クアトロンは、従来の液晶テレビの評価軸から大きく飛び出た製品かもしれない。少なくとも、シャープは期待値を上回る画質にするための道筋をつけたと思う。これは腰を据えて評価しなければならない。そうした意味でも、製品版の「AQUOS クアトロン」を目にする日が、今から待ち遠しい。

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2010年6月30日