なぜ4原色なのか? シャープ「AQUOS クアトロン」を読み解く本田雅一が徹底分析(1/2 ページ)

シャープの4原色ディスプレイ技術「Quattron」(クアトロン)が、いよいよ日本市場にも投入される。3Dテレビとしての素養に注目が集まっているが、一方で2D映像の表示にも大きなメリットがありそうだ。

» 2010年06月14日 10時00分 公開
[本田雅一,PR/ITmedia]
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 今年1月の「2010 International CES」で発表されたシャープの4原色ディスプレイ技術「Quattron」(クアトロン)が、いよいよ日本市場にも投入される。今年の薄型テレビ市場で大きなうねりを起こすであろう3Dテレビの品質を向上するものとして注目を集めているが、やはり一般的な2Dテレビとして使った際にどのような利点があるか? という点も気になるだろう。

photo シャープが5月31日に発表した“AQUOS クアトロン”の2Dモデル「LC-60LX3」。7月下旬に発売予定(画面はハメコミ合成です)

 目の肥えた読者の中には、1色を追加しただけで、本当に画質は上がるものなのか? そもそも原色を増やすことに問題点はないのか? といった疑問を感じた人もいたはず。今回は、クアトロンに関する、少し深めに掘り下げた取材を行い、その技術と実際の効果を探った。

テレビの違いが見えにくくなってきた

photo 本田雅一氏

 ここ数年を振り返ると、テレビ業界は”デジタル化”と”フルHD化”という2つの流れに沿って歩んできた。しかし、42V型以上のテレビの多くがフルHDとなり、それ以下のサイズでも珍しいものではなくなった今、世界中で各メーカーのテレビが”同質化”してきている。

 もちろん、実際には製品ごとの画質差は大きい。もともとアナログ・ブラウン管の特性に合わせて放送されている映像を、それぞれのディスプレイが内部で色や明るさを換算して再現しようというのだから、ここにはノウハウや技術力の違いが発揮される。

 しかしスペックでいえば、どの製品も同じように見えるというのは否定できない。そんな中、少しでも他社製品との違いや優位性を発揮させるためにメーカー各社は努力を続けている。われわれ消費者は、期待に応えただけではあまり喜ばないが、それが期待値を超えたものだと感じると「次に買うならコレ」「他人にもその良さを知ってもらおう」と、愛着を感じる傾向がある。”3D”という技術もそうした文脈の中で生まれてきたものといえるが、シャープは独自性の高い液晶技術で、他社製品との差別化を図ろうとしている。それは、昨年発表されたUV2A技術である。

なぜ、4原色なのか

 UV2Aについては本誌連載でも詳しく紹介したことがあるが、開口率20%向上(明るさ、消費電力に貢献)、従来比1.6倍以上のコントラスト(高画質)、従来比2倍速の応答速度、画素構造の簡素化(高解像度化、低コスト化)を実現した、シャープ独自の液晶パネル製造技術だ。

photo UV2A技術により、開口率は20%向上した

 UV2Aでは光の利用効率が高いため、1画素を従来よりも小さくできる。おそらく将来、4K2KといったフルHDを超える解像度を実現していく際に重要な要素技術となっていくはずだが、その前段階としてUV2Aの画素構造を生かす方向性としてシャープが研究を進めたのが、多原色化だったのだ。

photo 3原色と4原色の色再現範囲。黄色の追加とともに緑色をシフトしてシアンの表現力も向上している

 ご存じのように、放送波では色再現範囲があらかじめ狭められている。ハイビジョン放送、あるいはBlu-ray Discビデオなどは、ITU-R BT.709という規格に沿った色空間を持っている。これは色再現の範囲でいうと、ほぼsRGBと同等のもので、あまり広いとはいえない。元々はブラウン管の特性を意識したものだ。

 しかしRGBで色を表現する限り、この範囲を大きく逸脱した色再現性を持つ液晶テレビを作っても不自然な色になるばかりで、高画質化には寄与しない。そこで考えられたのは、あくまでもRGBの色再現範囲はBT.709に合わせつつ、そこでは表現できない自然色を表現するための色を加えることだった。

 通常、色は3つの原色で表現されるが、そこに他の色を用いて再現できる範囲を拡げるという手法そのものは、以前からさまざまな分野で行われてきた。例えば市販されている写真集の中には、通常の印刷(CMYK)では表現できない色(深い緑や鮮やかなオレンジなど)を出すために、”特色”と呼ばれるインクを追加することがある。

 シャープの場合、研究段階では5原色で開発していた。理由は明快で、自然に存在する物体色のうち、BT.709では表現できない色がシアンとイエローに集中していたためだという。

 しかし商品化に際しては5色ではなく4色が選ばれた。UV2Aで開口率が上がったとはいえ、画素数を増やしすぎれば画素間の格子が増加することによって開口率が下がる。するとせっかくの優位性も生かしにくくなる。

 では、追加する色がシアンではなく、イエローになった理由は何か。

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提供:シャープ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2010年6月30日