モバイル受信――その鍵を握る「地上系システム」(2/2 ページ)
地上波デジタル放送によるワンセグモバイルはもちろんのこと、衛星放送の移動受信についても、安定的な受信を実現するためには、確固たる地上系の仕組みの構築が不可欠だ。“ビル陰難視”などの解消の場合、有線系による対策が採れないところに難しさがある。
東京都のように特に高層ビルが密集しているケースだと、1局のギャップフィラーでカバーできるのは半径600メートルから1キロ程度の範囲と考えられる。その場合、必要となる設置数は、どのレベルまで受信率を上げていくかにも依存するので、一概には言えないものの、地下への対応を除けば、関東生活圏(東京から50キロ以内)では、サービス開始までに約2000局の設置が必要になると見られている。
地方都市の場合には、同じギャップフィラーでも、半径2キロから3キロ程度はカバーできるようなので、設置数も少なくて済む。この点で言えば、地方の場合、むしろ200万円で山間部のメディア過疎の解消ができるとすれば、コスト面では魅力的と言うこともできるだろう。
一方、地上波デジタル放送の目玉商品として期待されているワンセグモバイルも、電波受信が前提である以上、ビル陰対策は不可欠であり、ギャップフィラーの設置が検討されている。モバイル放送のギャップフィラー設置が先行して進められているが、モバイル放送とワンセグモバイルで使用する電波が異なるため、ギャップフィラーの共有はできない。結局、ワンセグモバイルでも、きちんとした地上系システムの構築が課題となるはずだ。
ただ、ギャップフィラーの設置については、携帯電話の基地局の時と同じ論理で、電波利用料が徴収されかねないという問題も存在する。とはいえ、地上波の中継局とモバイル受信のためのギャップフィラーを同じように扱ったのでは、地上系システムの構築は難しくなる一方だ。もしギャップフィラーに電波利用料を課すにしても、総務省はモバイル受信の防災機能としての性格などを評価し、実態に合った水準に設定すべきだろう。
ちなみに、スカパーの放送を携帯電話機で受けられるようにするという試みは、同じように衛星放送からの電波をキャッチすると言っても、モバイル放送などと異なり最初から地上系のシステムだけで対応される。つまり、衛星波を受けたところから地上系で中継していくのであり、直接受信については考えられていない。携帯電話端末によるナビゲーションサービスなどと同じ仕組みだと考えればよいだろう。
西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、潟IフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。
関連記事
- 視界不良に陥った「ワンセグ・モバイル」
地上波デジタル放送の目玉の一つとされてきた移動受信(ワンセグ・モバイル)だが、一向に始まる気配がない。この点について種々の説明がされているが、サービス開始が遅れている真の理由は、別のところにありそうである。 - 4日間同行レポート(前編):「モバイル放送」を追いかけた2500キロ――Sバンドを求めて西へ
「モバイル放送」をじっくりと体験するチャンスは記者といえどもなかなかない。と思っていたら、「もうお腹いっぱい」と涙目になるほど堪能できるチャンスがめぐってきた。東京〜福岡を4日間かけてクルマで往復し、その間は搭載したチューナーでモバイル放送を“見っぱなし”という企画である。これを逃したら記者魂が廃ろうというもの。早速同行することにした。 - 4日間同行レポート(後編):「モバイル放送」を追いかけた2500キロ――『ワレ到着セリ』
福岡に到着したかと思ったら、その12時間後には来た道を戻るために出発である。何をやってんのかというツッコミもあろうが、当然答えは「モバイル放送を聴いている」ということになる。 - モバイル放送の「ギャップフィラー」の仕組みに迫る
衛星からの電波を受信するモバイル放送では、電波を受けることができないビルの陰やトンネル、地下のような場所が問題となる。これを解決するのが、電波を再送信する装置「ギャップフィラー」である。 - モバイル放送が飛行機やトンネルでも安定受信できる秘密とは?
来年の放送開始予定のモバイル放送は飛行機内でも安定受信できるという。これを可能にする技術を探った。 - 今年は110で攻めるスカパー、携帯への映像配信はauも視野に
スカパー!が今年の重点施策を発表した。既存事業のブラッシュアップに加え、110度CS放送やFTTHによる映像配信がそのポイントに挙げられている。携帯電話への映像ライブ配信もそのひとつだ。 - 西正氏のコラム一覧
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.