分岐点を迎えたデジタルレコーダーの行方(3/3 ページ)
デジタルレコーダーは、DVDやEPGの有無などで、大手家電メーカーが熾烈な差別化競争を繰り広げてきた。昨年の「スゴ録」登場あたりから、それが横一線に並んだ感があったが、最近また二つの流れに分かれ始めたようだ。
2002年に発売されたソニーの初期型コクーン「CSV-E77」がそれである。このマシンは、ダブルチューナーを搭載し、おまかせ・まる録機能を実装していた。
今にして思えば画期的な製品だったわけだが、実際の動作は自動録画のほうに大きく傾いていた。それというのも、二つめのチューナーはユーザーが自分で録画予約できず、完全に自動録画のためだけに存在していたからである。
後継機の「CSV-EX11」と「CSV-EX9」では二つめのチューナーでも予約できるようになったが、今度はDVDを搭載していない点が問題視された。実際に現状のハイブリッドレコーダーでは、それほどDVD録画は利用されていないという話もあるが、“付いていて使わない”のと、“最初から付いてない”のとでは覚悟の度合いが違う。ソニーが得意とする生活提案型の製品だが、いろんな意味で割り切りが早すぎたのだろう。
端的に言うならば、ダブルチューナーを実現しているのはハードウェアの実装能力、自動録画を実現しているのはソフトウェアの開発能力だ。DVRはその両輪がバランス良くそろう必要がある。どちらかの派が他者を凌駕(りょうが)するということでもないだろう。
長い目でみれば、DVRは次第に記録装置としての能力に特化していき、再生機としての機能はネットワーク側に切り離されていくのではないか。マルチレコーディングができれば、次に求められていくのはマルチアウトプットだからだ。
もしこの予想が正しいとするならば、今年の年末商戦から来春のモデルでは、ホームネットワーク機能が目玉になってくるだろう。今年はまだNECの動向が見えてこないが、現時点で先行しているのは、松下のDIGA最上位モデル「DMR-E500H」だけだ(レビューその1、その2)。
ホームネットワーク機能は、ハイエンドモデルが購入できるリッチなユーザーだけが必要な機能ではない。今やDVDへの書き出しが当たり前のように、LAN経由で他のテレビやレコーダ、PCからコンテンツが引き出せるというのは、アウトプットの一つなのである。
あとは、世界中で日本だけこれができない、というしょっぱい状況にならないことを祈るばかりだ。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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