PLC(1)――高速回線としてのPLC:デジモノ家電を読み解くキーワード
LANの構築は面倒なものだが、いまは「コンセントにつなぐだけ」でOKなネットワーク機器がある。今回はその「PLC」の概要と、登場までの経緯について解説してみよう。
PLCの黎明期
PLC(Power Line Communications)とは、電力線を通信回線として利用する技術のこと。コンセントに専用の通信装置を接続すれば、理論値で最大200Mbpsという高速な通信が可能になる。建物内に張り巡らされた既存の電気配線を利用すれば、新たにケーブルを敷設することなくネットワークを構築できるため、近年ではLAN回線(Ethernet)のかわりとして注目を集めている。
このPLC、実は昨日今日の技術ではない。これまでにもインターホンのアナログ音声をのせたり、エアコンや照明器具をON/OFFするための通信(ECHONET:エコーネット)などに活用されてきた。しかしECHONETの場合、利用可能な周波数帯が500kHz以下に限定され、通信速度は最高で9600bpsと、一昔以上前のアナログモデム並。これではインターネットの利用に耐えられない。
一度は消えかけた技術
最初にPLCが高速通信回線として注目を集めた時期は、ADSLが普及し始めた時期とほぼ一致する。ADSLは、本来低周波の利用しか想定されていない電話回線に高周波信号を重ね合わせる(重畳)ことにより、高速なデータ通信を実現するが、基本的な考え方はPLCも同じ。100ボルト(50/60Hz)の電力線にモデムで変調したデータを重ね、電気にのせて転送するしくみだ。PLCはADSLと同様に、FTTHなど屋外の高速回線と屋内をつなぐ「ラスト・ワンマイル」用回線としての活用が期待されていた。
しかし、その当時PLCで利用できた周波数帯域は、電波法の規制により、10〜450kHzに抑えられていた。理論上での最大速度も3Mbps程度と、ADSLより若干速い程度で、ノイズによる悪影響を受けやすい帯域ということもあり、やがて話題からも姿を消した。
2006年が「高速PLC元年」
現在、国内でPLCとして実用化されている規格は、2006年10月の電波法施行規則一部改正を受けた、2〜30MHzという高い周波数帯域を利用するもの。使用は屋内に限られるが、理論上は最大200Mbpsの高速通信が可能になり、ハイビジョン映像のような広い帯域幅を必要とするデータの転送も可能になった。ネットワーク機能を必要とするデジタル家電も増加中であることから、コンセントにつなぐだけ、という手軽さが魅力のPLCは急速な普及が見込まれている。
次回は、PLCの種類と導入の実際について解説を行う予定だ。
執筆者プロフィール:海上忍(うなかみ しのぶ)
ITコラムニスト。現役のNEXTSTEP 3.3Jユーザにして大のデジタルガジェット好き。近著には「デジタル家電のしくみとポイント 2」、「改訂版 Mac OS X ターミナルコマンド ポケットリファレンス」(いずれも技術評論社刊)など。
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