日本式コンテンツ利用への序章:小寺信良の現象試考(3/3 ページ)
なぜ“著作物”は不自由なのか――その根源である「著作権」の運用を、許諾権ではなく報酬請求権に置き換える動きが進んでいる。それは著作権が肥大した時代の「揺り戻し」ともいえる。
これは楽曲のイントロ部分に別の歌詞とメロディを付加することは、許可していない改変であるとして、楽曲の歌唱禁止を言い渡したものである(現在は遺族と和解)。 さらにJASRACも同一性保持権の侵害である可能性があるとして、改変バージョンの利用許諾を差し止めたため、影響は森氏だけの問題にとどまらなくなった(「おふくろさん」のご利用について JASRAC)。
そもそも楽曲本体とは分離した部分に歌詞を加えたからといって、同一性保持権の侵害が成立するかという問題は、当時から指摘されていた。また同時に侵害があったとしても、特定個人に楽曲本体も歌わせないという制限措置が、著作権法上認められた権利として成立するのか、という点も疑問視された。しかし権利者である川内氏が亡くなってしまったので、裁判で決着することは不可能となった。
放送のネット利用にのみ限定しても、いや逆にネットだからこそ、どのように改変されるかわからないという恐怖は、権利者には残ることだろう。しかしそのままにしてもYouTubeにアップされ続けることには変わりがないわけだし、むしろ正規のオンデマンドのようなセキュアなシステムに乗せて配信した方が、現状維持より安全であるとも言える。
そうこうしているうちに、許諾権を報酬請求権化するという動きは、Googleブック検索という形で海を越えて突然襲いかかってきた(→日本の書籍全文が米国Googleブック検索に? 朝刊に載った「広告」の意味)。もともとは米国内での訴訟に対する和解だったものが、ベルヌ条約加盟国全体に及ぶことになった、巧妙な作戦である。
なぜこんなことになったかと言えば、米国の作家・出版社の訴えが、クラスアクション(集団訴訟)であったことが原因である。クラスアクションは、消費者団体などがよく使う手段で大抵は和解になるのだが、その和解による利害は訴えた団体だけでなく、消費者全体に及ぶというものである。つまり利害関係者全員が参加して訴える手間と労力を、一部の団体が代行したと見なすわけだ。
Googleブック検索への訴訟もクラスアクションであったため、その影響は利害関係者全員に及ぶ。だから米国だけでなく、ベルヌ条約でつながっている国々にも、連鎖的に及ぶわけである。そもそもこんな形式のクラスアクション自体、採用している国していない国があるわけだが、そんなことお構いなしに津波のように総ざらいしてしまう。
このように「とりあえず全部やっちゃうね、イヤな人は後で言ってね、消すから」というやり方は、かつてのGoogleストリートビューと同じオプトアウト型の構図だ。ストリートビューの時もメリットがある人、ない人が存在したわけだが、今回は著作者、そして各国の著作権というものを全世界同時にぶち破っている点で、スケールの大きな話である。
筆者もこの件に関しては権利者側の立場に移ったわけだが、そうであっても報酬請求権方式は、筆者のような三問文士にはメリットが大きい。たぶんこれがなかったら、Googleに僕の昔の本を売ってくれませんかと依頼しても、門前払いであろう。どうせ出版社に任せておいても死蔵するだけの本なら、売ってくれる可能性のほうにかけたい。これ以上誰も売ってくれないのだから、自分でフリーマーケットに出すようなものである。
著作権、そしてプロのクリエイターの世界も、もはや変わらざるを得ないところまで来ている。抵抗しても、時代のすう勢によって根こそぎさらわれる時代になったという認識を持たなければならない。案外、現場のクリエイターには、売ってくれれば方法はいろいろあっていいと考えている人も少なくないだろう。
IT技術は、クリエイター自身が自分で店を出して小売りするということも可能にした。しかしそれはメジャーの物流に乗るではなく、インディーズ商売に転向するということである。インディーズはやらないという人は、メジャーの売り方が変わったというのだから、新しいビジネススキームには乗るしかない。これは異様なまでに著作権が肥大した時代の、一種の揺り戻しなのである。
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