メーカーはやっと“だれでも高画質を楽しめる”テレビを目指し始めた(1):本田雅一のTV Style
パイオニア「KURO」が先鞭をつけ、東芝「REGZA」も別アプローチで続いた自動画質調整機能。さらに日立製作所も春モデルから「インテリジェント・オート高画質」という名称で搭載した。このタイプの機能は今後、さらに注目されるものになる。
残念ながら撤退を余儀なくされたパイオニア「KURO」に「リビングモード」として搭載され、その後、東芝の「REGZA」が別のアプローチから「おまかせドンピシャ高画質」として採用した“自動画質調整機能”。そして、日立製作所がこの春のモデルから、「インテリジェント・オート高画質」という名称で取り込んでいる。以前にもこの連載で取り上げたことがあるが、このタイプの機能は今後、さらに注目されるものになるだろう。
テレビの画質は見る環境によって大きく異なる。一般的なテレビでも画質モードが複数あるのはそのためだ。部屋の明るさと照明の色温度によって、全く同じ表示を行ったとしても、周囲の環境によって感じ方が変わってしまうからだ。
また映像のタイプによっても、最適な映像調整は異なる。なぜなら一般的なテレビ放送は、HDTVの規格上の色温度よりも若干、高めに映すことを想定して作られていることがほとんどだからだ。これに対して映画や海外ドラマなどは、規格通りの色温度6500度で、ほどよい雰囲気になる。
しかし多くの人は主にテレビ番組を見ていることに加え、1万度近い、かなり青っぽいホワイトバランスにも長年のテレビ視聴で慣れてしまっている。6500度に調整してあると、くすんだようなハッキリしない発色で嫌われるため、映像の標準モードは9300度前後に合わせられているものが多い。
またトーンカーブや絵作りも意外に違う。スタジオ撮りのバラエティ番組などは、とても明るい映像で撮影されている。対して映像はもともと暗い場所で、しかも大画面で見ることを想定しているので、明るいシーンでも一般的なテレビ番組ほど平均輝度が高くない。その代わり、黒を基準にして光を積み重ねるように階調の見せ方を工夫しながら映像が作られている。
このため、一般的な明るい部屋で映画を"正しく"表示すると、コントラストが低く色も薄い物足りない映像になる。これはテレビの画質が悪いのではなく、視聴環境とコンテンツ制作の意図がズレ過ぎているために起こることだ。例えば、映像制作のプロフェッショナルが頼りにするマスターモニターを家庭の中に持ち込んでリビング環境で見ると、驚くほど地味でパッとしない映像に見える。
したがって、本来は映像の製作意図に合わせた正しい色温度、色再現を行った上で、暗い部屋で見るのが映画の正しい見方ということになるが、実際には真っ暗な中でテレビを使ってくれる人はほとんどいない。
メーカーが提供している映画モード、あるいはシネマモードといった映像モードは、室内の明るさが50ルクス以下を想定しており、中にはほとんど真っ暗な環境で開発しているというものもある。昨今、これでは問題ということで、映画系の映像モードを2つ備え、片方は真っ暗な部屋用、もう一方は照明を少し明るくした部屋用とユーザーに使い分けてもらうようにしている機種もある(例えば東芝REGZAの「映画モード」と「映画プロモード」など。ただし、ソニーBRAVIAの「シアター1」と「シアター2」は意図が異なり、どちらもかなり暗い部屋でコンテンツによって合うタイプを選択してもらうスタイルを採っている)。
これらをきちんと選択し、さらに部屋の明るさに応じて輝度レベルを調整すれば、きちんと見えるというのは、以前にテレビの画質調整について解説した通り。
しかし実際に映像モードをリモコンで切り替えてくれる人は、ほんの1割ほどしかない。たいていは買ってきたまま、そのままの状態でテレビから映画、スポーツまで幅広い映像を見る。また、たいていは置き場所も決まっているため、「照明環境は部屋のどの場所が一番いい」などと、画質にこだわったところで、家族の理解が得られることはほとんどない。それに”自分は映像機器マニアだ!”と自認している方であったとしても、いちいち切り替えなくても最適な状態で楽しむ機能を搭載することに反対する理由はなかろう。
もちろん、正しく機能してくれたならの話だが、これがきちんと動くのである。東芝と日立では手法が異なるが、その動き方や実際の効果について話を進めていくことにしよう。
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