3D映画を楽しむために業界が考えるべきこと:本田雅一のTV Style
「3D映画は薄暗くて楽しくない」 最近、そんな声を聞くことが増えた。明るさの問題だけで3Dの世界が色あせて見えるとしたら、それは業界全体にとってのマイナスだ。
前回までに書いたように、家庭用の3Dプロジェクターはいくつもの課題を抱えている。では、結局のところ、実用化は難しいのだろうか?
そうは思わない。これまでにも述べてきたように、ハードルはとても高いが、きっとメーカーは何らかの工夫で対応してくるだろう。それが今年なのか、それとも来年なのかは分からない。なにしろ、3D映画が本格的に話題になり始めて、まださほど時間は経過していない。一般に知られるようになり、劇場でも3D上映館の方に人が集まるようになったのは、ジェームズ・キャメロン監督の「アバター」が公開されて以降の話なのだから。
今は新世代の(と表記しないと、過去にも3Dテレビはあった)3Dテレビが、やっと市場に投入されたばかりである。一定以上の品位を実現し、標準フォーマットや伝送規格など、周辺が固まって始まった3D映像のビジネスだが、最初からすべてが完成され、円熟の域に達しているわけではないのだから。今後、まだまだ時間をかけて進歩していくことになる。技術的な問題というのは、いつか時間をかければ必ず解決する。
問題は3D映像の技術が円熟するまでの間に、この技術に可能性がないという根拠のない断言をされてしまうことだろう。確かに3D映像の技術には、まだまだ課題が多い。見せるためのディスプレイ技術だけでなく、演出や撮影といった映像製作側の技術やノウハウが、まだ充分に広まっているとは思えないからだ。大きな予算で動くハリウッド映画は、そのあたりは充分に承知の上で動いているが、心配なのは国内のコンテンツだろう。
また現時点で、もっとも多くの人が手軽に3Dを体感できるのは3D対応の映画劇場だ。ところが、3Dスクリーンを導入している大手映画館チェーンのうちの1つは、スクリーンのかけかえが不要なためだろう、XpanD方式を全面採用している。その結果「本田さん、3D映画って薄暗くて楽しくない。2D見た方がずっと良かった」なんて感想をよく聞かされる。有料入場で3D料金も支払って3D映画を観ている人に、こういう感想を持たれるようでは問題だ。
以前も書いたように、明るさの問題は、XpanDという方式の抱える弱点でもあるのだが、そもそも各スクリーンごとにどのぐらいの明るさになっているのか、劇場側はチェックしているのだろうか。筆者が見る限り、同じXpanD方式のスクリーンでも、それぞれの劇場ごとに明るさにはかなりの差があった、方式そのものの問題でもあるとともに、劇場側の運用の問題もある。
明るさの問題だけで3Dの世界が色あせて見えるとしたら、それは業界全体にとってのマイナスではないだろうか。今週はパナソニックから3D対応のVT2シリーズが出荷され始めたが、それを店頭でチェックしたという知人の映像作家は、「暗い」という感想を漏らしていた。日本のテレビ売り場はとても明るい。その明るさに負けない3Dテレビというのは、現在の所ちょっと難しい。もちろん、家庭の中で楽しむには充分な輝度が確保されているのだが……。
このあたり、メーカー側の努力も必要だろうが、可能な限り、家庭内での試聴に近い視聴環境を提供することを販売店側も本気で考えていかなければならない。
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