スーパーハイビジョンが見せた不思議な立体感:麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/2 ページ)
NHKの「技研公開2011」で、初のスーパーハイビジョン(SHV)液晶ディスプレイを見た来場者は、自然な立体感に目を奪われた。日本画質学会副会長を務める“画質の鬼”、麻倉怜士氏に解説してもらった。
麻倉氏:今回の85V型液晶ディスプレイは、家庭への展開を考えて開発されたものです。1995年にスーパーハイビジョンの開発がスタートしたころ、NHKは100インチ級の画面を想定していたのですが、今回は85V型を提案しました。それでも大きいので、わたしは70インチくらいにすると家庭に入りやすいのではないかと思います。現行ハイビジョンテレビも当初は50インチが前提でしたが、今では32V型のフルハイビジョンテレビもありますし、リビングルームでは現在40インチクラスが主流なので、70インチクラスなら“新しいテレビが来た!”という印象になるでしょう。
それ以上に注目したいのは、スーパーハイビジョンの圧倒的なスペックです。現行ハイビジョン放送は、開発から普及まで長い時間をかけた割に、肝心なところが欠けている印象です。例えば、日本では1チャンネルあたり6MHzと帯域幅が狭く、順次走査ができないというSDのヘンな伝統をハイビジョンも引きずってインタレースのままですし、ビット深度も8bitしかありません。毎秒60フレームといったスペックも単純にアナログ放送から受け継いでしまっていますね。
一方のスーパーハイビジョンは、16:9のアスペクト比は同じですが、3300万画素、120Hzのフレームレート、12bitもしくは10bitのビット深度と現在のハイビジョンに欠けていた部分が補われています。とくに倍速(120Hz)が標準になり、しかもそれがプログレッシブというのがすごい。最高のフォーマットですね。願わくは、16:9ではやはり狭いので、シネスコサイズにしたいです。
SHVの前に4K×2Kの時代がくる?
――スーパーハイビジョンの前に4K×2Kの時代がくると予想する人も多いです
麻倉氏:私もそう思います。NHKが実験放送開始の目標としている2020年まで、まだ9年もあります。突然8K×4Kの時代が来るのか、あるいはバトンの受け渡しをする4K×2Kが先にくるのかは、誰しも気になるところでしょう。
市場動向に目を転じますと、東芝は今年の秋に4K×2Kのテレビを出すと明言していますし、他社も追従する可能性は高い。そしてテレビだけではなく、さまざまな表示装置の形をとって今年の秋以降には4K製品を売り出そうという動きが業界内にあるのは確かです。
現行ハイビジョンの4倍の画素数を持つ4K×2Kは、既に「デジタルシネマ」という形で実用化されています。一部の劇場でソニーの4Kプロジェクターを導入していますし、一方でマスタリングの世界ではBlu-ray Disc制作に4Kマスターを使うことが当たり前になっています。例えば、この連載でもたびたび取り上げる「サウンド・オブ・ミュージック」のレストアBDは、8Kでスキャンして4Kにダウンコンバートしたマスターを用いて修復作業を行いました。映画の分野では4Kマスターを使った修復も一般化してきたといえるでしょう。
撮影などの制作環境も整いつつあります。米Red Digital Cinema Cameraのデジタルムービーカメラ「Red One」は4520×2540ピクセルの解像度を持つCMOSセンサーを使ったもので、すでにCM撮影や映画撮影に幅広く使われています。CM撮影でも、化粧品会社などはNTSCの時代からフィルムで撮影してビデオに起こすなど、画質にとてもこだわってきました。今では、4K×2Kで収録して編集を行い、最後にダウンコンバートするそうです。
一方、今年のNABではソニーが4Kカメラを出展していますし、ビクターもInternational CESで発表しました。撮影から編集にいたる4Kワールドが出来上がりつつあるのです。
次回は4K×2Kをめぐる最新の動向を紹介します(→4K×2Kがやってくる)。
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