静かになった「Dyson Cool」、サーキュレーターとしても使えるか:本田雅一の「男の白モノ」(2/2 ページ)
今回のテーマはダイソンの扇風機「Dyson Cool AM06/AM07」である。その仕組み上の面白さや、従来製品との設計アプローチの違いなど、トリビア的な技術タームも含めて取り上げてみたい。
ヘルムホルツ共鳴とは、瓶の口に息を吹きかけた時に音が出る現象と原理は同じ。Dyson Cool内部で発生する空気の流れによって共鳴が発生する空洞を作り、その空洞の共鳴周波数をインペラーが発生するノイズの周波数と合わせておく。さらにインペラーと空洞の距離を最適化し、逆位相で両者の振動がぶつかるように配置すれば音が打ち消される。
共鳴する周波数は空洞の大きさで変えることができ、ノイズ発生源と空洞出口の距離を調整すれば位相を逆に合わせ込むことも可能だ。これだけなら、これまでのDyson Coolと同じようによく似たコピー商品がすぐに出てくるだろう。
しかし、原理がシンプルなだけに、文字で上記のように書くのは簡単だが、実際にはかなり難しいのではないかと思う。いくつか疑問が湧いたのでいくつか質問してみた。
Dyson Coolがウルサイと感じるのは、モーターが高速回転させることで発生する音をインペラーが増幅し、高い周波数にノイズ集中しているからだった。筆者も所有している「Dyson Hot&Cool」は型名は変化していないものの少しずつ品質が安定したようで、2年目に実家に買って送ったものがずいぶん静かに感じられるなど、それなりに工夫をしているようだった(おそらく発生ノイズの周波数を分散させていたのでは?)。
それでも、やっぱりウルサイ。実は中国メーカーのコピー商品も知人宅でみかけたことがあるのだが、それらはさらに大きな音がする。Dyson Coolのような高周波音だけでなく、さまざまな周波数のノイズが混ざり合い、筐体(きょうたい)全体の振動がそれをさらに拡大しているような印象。とても最大風量などでは我慢できない。要は発生するノイズや風の通り道で発生する振動を、どうにもまったくコントロールできていないようだ。
なぜこのようなことを書くかというと、ヘルムホルツ共鳴を発生させる空洞は、単一周波数でしか共鳴しない。第2世代Dysonに内蔵される空洞は1kHzに調整されているため、モーター+インペラーが発生する音も1kHzに集中させる必要がある。この原理では、ほかの周波数の音は下げられないからだ。
ということで、筆者は「1kHzにノイズを集中させるよう、モーターやインペラー、空気の流路を最適化したの?」と質問してみた。すると、やはりインペラーの形状などを最適化して周波数が分散しないよう工夫することで、ノイズキャンセリング性能を上げるよう工夫したのだという。
ヘルムホルツ共鳴によるノイズキャンセルが万能であればいいのだが、アクティブ回路でのキャンセリングではないため、キャンセルできる周波数は限られる。発生するノイズのエネルギーを、いかに特定帯域に押し込めるか? が、この方式のキモというわけだ。もちろん、”他の周波数帯でノイズを出さない”工夫には、前述した流路の最適化も含まれている。これをコピーメーカーが簡単に真似るのは難しい。
もっとも、同じことはダイソン自身が販売しているファンヒーター「Dyson hot+cool」(ダイソン ホットアンドクール)にもいえるだろう。「Dyson Cool」の内部はシンプルで、ノイズ発生源と共鳴管の出入り口の間はガランと空いた空間。またインペラーから吹き出し口までの経路にもジャマするものは何もない。しかし、ヒーターとの熱交換が必要なホットアンドクールでは、そうはいかないだろう。
発生ノイズの周波数が分散してしまうと、ノイズキャンセル効果は下がってしまう。ということで、現在のところホットアンドクールの低騒音版は「鋭意開発中」とのこと。なかなか難しい開発になるのではないか。
とはいえ、多少ノイズ低減効果が下がったとしても、個人的にはあのキーンというモーター音がなくなるなら6dBの効果がなかったとしても……と思うのだけど、さて次の冬までに開発が終わるかな? と、ホットアンドクールの新モデル登場にも期待している。
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