ハイレゾ再生の新しい潮流(後編)――ポータブルでハイレゾ鑑賞のススメ:麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/2 ページ)
“ハイレゾ”対応機器の幅が広がってきた。前回に続き、今回はハイレゾ再生に対応したポータブル機器を取り上げよう。麻倉氏が注目したヘッドフォンも紹介。
ULTRASONE「EDITION 5」&AKG「K812」
麻倉氏: 最後にヘッドフォン2機種を取り上げましょう。1つめは、ULTRASONEの「EDITION 5」です。以前から私も注目していたブランドで、解像感の高さと音楽性の高さで印象的でした。
ただし、これまではどちらかというとテクノロジー重視だったのに対し、「EDITION5」では音楽的なバランスが向上しました。解像感や輪郭感だけでなく、高い次元で音のしつらえが向上しています。
低域は明快でスケールも大きい。スピード感がありつつ、共感もしっかりしています。一方、中高域は倍音領域まで含めて解像感がいい。例えば、弦楽器の演奏を聴くと、弦の倍音の情報量の多さに感心します。また、大振幅はもちろん、小さい振幅でも繊細に反応するため、細やかな音の再現も可能です。音楽をダイナミックに楽しめる上にクリアな心地よさがとても印象的でした。音楽的な用途に加えてプロ用としても十分に使えると思います。
もう1つはAKGの「K812」です。ご存じの通り、AKGはオーストリアのメーカーですが、昨年の「K712PRO」に続く高級機として投入されたのがこのモデル。現在ある技術をすべて注ぎ込み、素材や構造を1から見直したフラグシップモデルです。
私も以前AKGのヘッドフォンを愛用していたことがあって親しみを持っていましたが、「K812」では、音楽性が非常に高いことに驚かされました。本来はモニター用に作られたもので、そのために高い解像感や、音色の違いを描き出す能力に長けた製品ですが、音のダイナミクスや空間表現など、音楽を“楽しんで聴ける情報”がとても多いのです。一般的なオーディオ用としてハイレゾ音源を鑑賞するのにも適しているといえるでしょう。
例えば、イーグルスの「テキーラ・サンライズ」。ギターのリズムから入る親しみやすい曲ですが、リズムが明瞭(めいりょう)でボーカルもクリア。ここまで音の情報が入っていたのか、とモニター製品の特長が良く出ていました。さらに驚いたのは、チャイコフスキーの「悲愴」(ワレリー・ゲルギエフ指揮ウィーンフィル)を聴いたときです。これは「e-onkyo music」の新譜で、チェロで始まる第2楽章から聞いたのですが、まるで(バンドの)編成が大きくなったかのような印象を受けました。チェロの奏で方1つ1つに表情があり、まるで演奏者それぞれの意気込みや思いまで感じとれそうなくらい、音の機微が出ているのです。さらにホールの空気感や響きの良さまで感じられ、トータルとしてのまとまりもいい。
いずれにしても、さまざまなハイレゾ音源が登場し、いろいろな人が聴くようになった今、ハイレゾをここまでの音楽性で聴かせてくれるヘッドフォンといえるのではないでしょうか。今回、紹介したハードウェアは、いずれも昨年までのレベルを超えたものばかり。機器がよくなることで同じハイレゾ音源ファイルでも、さらに良い音で聴くことができます。ハードの進化とともに、同じ音源でもさらに良く聴けるというのはレコードやCDの世界でも経験してきたこと。さまざまな人々の工夫が加わることで、ハイレゾ音源鑑賞はさらにレベルアップしていくのではないでしょうか。
関連キーワード
ハイレゾリューション | AKG | 麻倉怜士 | ヘッドフォン | iriver | フラッグシップ | オーディオ | DAC(D/A Converter) | デジタル閻魔帳 | FPGA | USB DAC(USB Digital-to-Analog Converter) | e-onkyo music
関連記事
- ハイレゾ再生の新しい潮流(前編)――NASが変わった! プレーヤーも変わる
“ハイレゾ”が新世代オーディオのキーワードとなり、対応機器の幅も広がっている。AV評論家・麻倉怜士氏による連載「デジタル閻魔帳」。今回は最新かつ注目のハイレゾ再生デバイスを紹介してもらった。 - バランス出力を備えた新フラグシップ、「Astell & Kern AK240」登場
アユートは、iriver「Astell & Kern」ブランドの新しいフラグシップモデル「AK240」を発表した。「2014 International CES」で先行展示を行う。 - AKGの新フラグシップ「K812」が登場――ヒビノが発売
ヒビノは、AKGのオープンエアー型ヘッドフォン「K812」を2月14日に発売する。AKGブランドのフラグシップモデルに位置づけられるモデルだ。 - ぜひ見ておきたい高画質&高音質Blu-ray Discたち――「第6回DEGジャパン・アワード/ブルーレイ大賞」(後編)
前回に続き、「第6回DEGジャパン・アワード/ブルーレイ大賞」の授賞作品とノミネート作品から、審査委員長を務めるAV評論家・麻倉怜士氏の琴線に触れた作品をピックアップ。今後のBD鑑賞の参考にどうぞ。 - ぜひ見ておきたい高画質&高音質Blu-ray Discたち――「第6回DEGジャパン・アワード/ブルーレイ大賞」(前編)
「第6回DEGジャパン・アワード/ブルーレイ大賞」の授賞式が2月中旬に行われ、15作品が受賞した。審査委員長を務めたAV評論家・麻倉怜士氏に今年の傾向と注目作品について詳しく聞いていこう。 - 見えてきたテレビの高画質化、そして次世代BDの姿――「2014 International CES」(後編)
後編は、気になる有機ELテレビと国内メーカーの動向、直下型バックライトの復活、4K収録の“次世代Blu-ray Dsic”など盛りだくさん。次世代の高画質ディスプレイにはHDR技術が入ってくる? - 4Kテレビにさらなる付加価値を――「2014 International CES」(前編)
今年も年始恒例の「2014 International CES」が米国ネバダ州のラスベガスで開催された。AV評論家・麻倉怜士氏によると、テレビの分野では2つの動きが見えてきたという。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.