「4Kではできない、を潰していく」――4K番組制作の現場(2/2 ページ)
NexTV-F主催の「第2回4K・8Kコンテンツ制作者・技術者ミーティング」では、番組制作に直接携わった技術者やディレクターが現状を語った。4Kならではの利点、そして4Kだからこその難しさとは?
4Kならではの難しさ
こういった前向きな環境変化が報告される中、逆に環境が整っていない部分や、4Kならではの難しさを指摘する報告も多数あった。中でも4K編集環境の不足は番組制作におけるボトルネックだ。例えば日本テレビが製作したドラマ「殺人偏差値70」では、他の番組編集がなかなか終わらないために同番組の編集作業が遅れるというトラブルがあった。
またケーブルテレビの現場では、4K編集環境自体がないケースもまだ多い。このような問題点を解決するため、ケーブルテレビ連盟コンテンツ・ラボでは、ケーブルテレビ局向けの4K編集環境を開発中だ。「2015年にはケーブルテレビでの4K放送開始を目指している。それまでにコンテンツを貯めこむことは非常に重要。小規模な局でも4K編集ができる環境を開発し、ケーブルテレビへの4K普及を促進したい」(田中氏)。
制作環境が日々進化する中、それを扱う技術は4K特有の難しさがあるという指摘の声も多い。「追え!光のメッセージ 4K映像で迫る生物の輝き」を制作したBSジャパンの鈴木拓也氏は「4K撮影はレンズワークが難しい」と語る。「例えば今回の場合、最小で2ミリという小ささの被写体を高精細に撮影することが求められ、レンズをリバース(逆付け)することで対応した。これはスチルカメラで用いられる超マクロ撮影の手法だが、こういった問題解決に対する知識量によって得られる映像が大幅に変わる」(鈴木氏)。直接的には撮影をしないディレクターであっても、撮影術に対する多くの知識が求められるという。
またJリーグ中継では、スタジアムによって環境が違うため、4Kが生きる中継ポイントを手探りで探している状態だ。サッカー会場は専用スタジアムと陸上競技場の2種類があり、会場によってカメラを置けるスペースが変わる。また、広くピッチを見渡す画と、選手やプレーをクローズアップする画が同じカメラに求められるため、カメラ配置やレンズ選択にも工夫が求められるという。さらに高精細であるためにフォーカシングはシビア。スカパー・ブロードキャスティングの上原聖治氏によると「日本最高峰のスポーツ中継陣に撮らせても、フォーカスアウトが連発した」という。
ドラマ「殺人偏差値70」の制作現場からは、「4Kは“映りすぎる”のが難しい」という声も上がった。これは、撮影中に意図せず高橋克実さんの頭頂部の産毛が映り込んだため。「レンズワークとして“見せたいものだけを見せる”という手法が必要」という。かつてハイビジョン導入時に、女優のシワを隠すために「ハイビジョン対応メイク」なるものが導入されたことと同じ構図だ。また、ドラマでもフォーカス合わせが難しいのは同じ。クリエイターから「表現の幅を広げるためにパンフォーカスができるレンズが欲しい」という意見も出たという。
こういった難しさがあっても、制作者たちは4Kが持つポテンシャルに期待している。「コンクリート時代」を制作した電通の塚本拓也氏は、遠くの雲など、奥行きがあるものに対してのディテールが凄いという。その上で「4Kが高精細であるからこそ生きてくるものがある。例えばテレビが風景を映す窓となるなど、従来のテレビが持っていた体験が変わってくるだろう。企画が2Kの時と同じでも、演出は4Kにマッチしたものにするといった工夫が必要だ」(塚本氏)。
4K制作を機に、新たな活用を模索する動きも起こっている。例えばテニスの錦織圭選手が出場したWOWOW制作の「有明コロシアムドリームマッチ」では、4K、2Kを同時放送するサイマル生中継を実施した。撮影は4Kで、2K放送はリアルタイムのダウンコンバートで対応。その際、ストレートに2Kへ落としただけではジャギーが出るため、特殊なフィルタをかけるという。
逆に4Kになっても変わらないものもあるようだ。「コンクリート時代」を制作した塚本氏は、「2Kとは違う体験を作っていきたい」とする一方で、「従来の制作姿勢が重要であるということは変わらない」と指摘。スカパー・ブロードキャスティングの上原氏は、視聴者がサッカー中継に求めるものは、「試合の流れが把握しやすいこと」や「迫力あるプレーが見られること」であり、「広いピッチを見渡したり注目のプレーをスーパースローで捉えたりといった従来のサッカー中継のスタイルを崩すことなく制作した」と話している。その上で「スポーツが持っている、一瞬の良い画というものを求めていくことは変わらない」と語った。
関連記事
- 試行錯誤に新たな発見、8K制作はここまで進んだ
2016年の試験放送を目指して準備が進められている8K。NexTV-F主催の制作者ミーティングでは、8K制作現場の試行錯誤が多数紹介された。 - 「スカパー!プレミアムサービス光」で4K放送サービス提供へ
スカパーJSAT、NTT東日本、NTT西日本の3社は2月17日、「スカパー!プレミアムサービス光」で4K放送サービスの提供を開始すると発表した。開始日は4月4日。 - スカパー! 4K専門チャンネルの編成決定
スカパーJSATが3月1日に開局する4K専門チャンネル「スカパー!4K 映画」と「スカパー!4K 総合」番組編成の追加情報を発表した。 - 4K制作、NHKはどこまで本気なのか?
4Kテレビの購入を検討するに当たり、やはり気になるのは4Kネイティブコンテンツが増えていくかどうか。サッカーW杯への期待とともに、放送局の動向も気になるところだ。 - 4Kネイティブ映像がもたらす“リアリティー”の世界
6月2日にスタートした4K試験放送「Channel 4K」。さっそくシャープ「TU-UD1000」を自宅シアタールームに導入したAV評論家・麻倉怜士氏にその魅力を聞いた。 - レッドブル、4Kテレビに翼をさずける?――「miptv」リポート(後編)
試験放送のアナウンスで注目を集めている4K。しかし4Kコンテンツの制作は、日本人の知らない場所でも徐々に進行していた。前編に続き、オーディオ・ビジュアル評論家・麻倉怜士氏が仏カンヌで開催された「mip tv」をリポート。えっ、あの会社も?
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.