試行錯誤に新たな発見、8K制作はここまで進んだ
2016年の試験放送を目指して準備が進められている8K。NexTV-F主催の制作者ミーティングでは、8K制作現場の試行錯誤が多数紹介された。
先週、東京・渋谷で「第2回4K・8Kコンテンツ制作者・技術者ミーティング」が開催され、主催のNexTV-Fが募集した8Kコンテンツ5作品の制作者がそれぞれ報告を行った。7680×4320ピクセル/約3300万画素という高解像度映像の撮影では、4Kともまた異なる視点が必要になるようだ。
J:COMグループのジェイ・スポーツは、NHKメディアテクノロジーの技術協力で撮影した「SKY」を紹介した。SKYは、「空のF1」といわれる「レッドブル・エアレース」に参戦する唯一の日本人パイロット、室谷義秀氏のエアロバティック(アクロバット飛行)を捉えた作品。高速移動するプロペラ機が繰り出すダイナミックで華麗な技をセスナ機からの空撮などを駆使して撮影した。飛行機空撮による8K映像制作は民間放送事業社としては初となる試みだ。
空撮には8K単板CMOSセンサーを搭載したソニー「CineAlta F65RS」を使用。地上からの撮影には池上通信機の4板式8Kカメラ「SHV-8000」を用いた。SHV-8000は、電源車や機材車を用意する必要があるほどの大柄な機材だが、光の3原色を別々のセンサーで記録する4板式は、単板式よりも色の再現性に優れる。
またアクションカム「GoProHERO4」やニコンのデジタル一眼レフカメラ「D800」も活用。例えば4K映像を縦横に4つ並べ、4面マルチによる8K画面を表現するなど、多分に実験的な取り組みが行われている。また、わずか10秒間の映像をつくるのにMacProとFinal Cut Proで合計600枚のTIFF画像を書き出し、編集スタジオに持ち込んで8Kを生成するという手法も紹介した。こうした試みにより、高精細かつ臨場感あふれた迫力の映像を表現することに成功したという。
NHK広島放送局は、広島市の原爆資料館に収蔵されている被曝遺品を扱った「ヒロシマ 被曝遺品が語る」を制作した。資料館には、原爆投下時の熱で焼かれた遺品の数々が展示されているが、制作に携わった森田哲平氏によると、8Kの超高精細映像では、アルミの弁当箱に彫られていた名前など、それまで気づかなかった細かい部分まで見えてくるという。「肉眼では分かりにくくても8Kなら見分けられるものもある。驚異的なディテールが持つ臨場感は、原爆投下後70年の時を超えて感情をゆさぶる」。
森田氏は、8Kによる変化の可能性を感じたという。「8Kでは、ズームなしで細かい部分まで見える。そのため、画は引きのまま、コメントを使って(視聴者の)意識をズームさせるという、今までとは全く違うロケの文法が現れる可能性がある」(森田氏)。
「8Kの高いポテンシャルはスポーツでも発揮された」と話すのは、8KによるJリーグプログラムを手がけたスカパー JSATの今井豊氏だ。今井氏は、今後のリファレンスとなる8Kの映像作りと、現状の技術を突き詰めることをコンセプトに撮影に取り組んだという。また、4Kの画質向上を検討するため、8Kカメラを使って4Kフル画素収録を行っている。「8Kで撮って4Kにダウンコンバートすると、色乗りが非常に良い。2Kから4Kに変わるとピッチと芝のキワが分かるが、これが8Kになるとさらに立体感が出てくる」(今井氏)。
制作者たちは、8Kに対する期待とともに、その活用法についても思うところがあったようだ。例えば「8K 小動物の世界」を制作したWOWOWの土屋健太郎氏は、教育現場や研究現場での8K活用の可能性を指摘。またNHK広島放送局の森田氏は、「パブリックビューイングや、海外出張展示などに活用したい」と話している。「8K 炎の第九〜小林研一郎と日本フィル」を制作した東北新社の服部洋之氏は、「8Kは肉眼で画素が見えなくなるため、深い没入感が得られる。チケットが数万円もするような人気オペラなどを映画館で中継できるといい」と語った。
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