パナソニックの創風機「Q」――奇抜なフォルムはデザイン先行ではなく技術者の発想だった:滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(2/2 ページ)
パナソニックの創風機「Q」。メーカーカタログにも、“What is this?”と書かれているように、球形のユニークなフォルムに目がいく。そんな形状はどうやって産み出されたのだろうか? 同製品開発担当の吉田哲也氏に詳しい話を聞いた。
「最適な圧力バランスに微調整していく際、周囲に6つ存在する誘引口の穴のサイズの総面積を、前方の送風口の穴の面積より大きくすることが一番のポイントでした。誘引される空気が多過ぎても少な過ぎてもダメ。適正に調整した結果、噴出口からの毎分1.2立方メートルの風を最大約7倍の毎分8.6立方メートルにまで増幅することに成功しました。また、空気との摩擦音が発生しないよう、周囲を湾曲させて滑らかな空気の流れを作り出しています」。
扇風機やサーキュレーターは、長時間一定の音がする空調家電だからこそ、音には気をつかったとのこと。さらに空気の吹出口の溝幅も緻密(ちみつ)に調整したという。その理由は何だろう。
「ここが広すぎると気流が弱まってしまい、逆に狭すぎると圧力が高まりすぎてしまうからです。また、扇風機やサーキュレーターは子どもがいる家庭でも使われますから、安全性も考慮して、指が入らないようにリブも均等に取り付けました」。
パナソニックは、同社が考える“理想的な風”を実現するため、これまでの扇風機でも多くのモデルでいわゆる“1/fゆらぎ”を採用している。これは自然に近い“ゆらぎ”のある風を実現する技術。長野県にある蓼科高原の実際の風を細かく計測し、心地良いと感じる自然なリズムを再現している。
「羽根のないモデルで“1/fゆらぎ”を再現したのは今回が初めてでした。自然界の風というのはもともと捻れがないものです。『Q』も羽根がない分、特有の脈動がないので、DCモーターの調整で、より理想的な“1/fゆらぎ”を実現できたと自負しています。“1/fゆらぎ”は通常の連続風にあたる場合と違い、体温の低下を最小限に抑えられるため、特に就寝時などにおすすめです。朝起きた時にも気持ち良く目覚められます」
風量は5段階で調整でき、直接風にあたる場合は1〜3、サーキュレーション用途なら4〜5を使ってほしいと吉田さんは語る。
「風量“5”では、最大約9メートルほど風を届かせることができます。これは一般的な部屋なら隅々にまで届く距離なので、エアコンなどとの併用すれば、部屋の空気を素早く対流させたいときに最適です。こちらの試算ですが、約8畳の部屋で3分以内に天井と床付近の温度差を1度以内にすることができました」。
取材後、実際に筆者が卓上に設置し、“1/fゆらぎ”で風を受けてみたところ、長時間あたり続けていても体に疲労感が残ることはなく、気持ちが良かった。使用する前はリモコンが付属していない点を疑問に感じたが、不便かなと思ったものの、実際身近で使っている分にはほとんど問題ない。付属のスタンドに置くことで、球体でも安定していたものの、とはいえ、将来的には首振り機能などを付属のスタンドにつけてもらえたらと感じたのも事実だ。
そんな創風機『Q』。新しい物好きの方や、部屋のインテリアにこだわりがある人におすすめしたい。いい意味で、この奇抜すぎるフォルムに騙されたとしても、そのルックスの裏に秘められた技術力やパフォーマンスの高さに、きっと“騙されてよかった”と満足してもらえるはずだ。
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