スティック掃除機の“当たり年”に飛び出した注目製品――パナソニック「イット」の秘密:滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(3/3 ページ)
スティック掃除機の“iT革命”は、三洋電機の技術がベースだった? そして“銃”にもみえるデザインに込められた思いとは。 パナソニック“iT”(イット)の商品企画とデザイン担当者に詳しい話を聞いた。
“1本の線”になるデザイン
最初のコンセプト段階から、壁面のコンセントプレートよりも細い70mm前後にすることは決定事項だったと北口氏は言う。
「そのためにダストカップの位置や基板、モーターやバッテリーなどを、その細身の本体幅内にどう配置するか、熟慮を重ねました。例えば、バッテリーのセルは通常、板状に横に並べるのが普通ですが、それでは今回の本体幅である72mmには到底収まりません。最終的に、かまぼこ状にセルを配置することにしました」(北口氏)
円柱状のモーターを採用した時から、本体は円柱状にデザインすると決めていたという。「その後セルや基板の配置を考えました。本来はすべてを円柱内に収めたかったですが、セルは単三形乾電池より一回り大きいので、どうしてもその状態で収めるのは難しく、円柱の上に板がのっているような形状に落ち着きました。でも、その凸部分がなるべく視覚的に目立たないようにするため、ハンドルの内側に配置しつつ、角の丸みを他の丸みとそろえたり、イメージされた時に記憶として残らない程度にまでは抑えられたと思います」(山本氏)
側面から見ると銃のようなスタイルで、どこか男性受けしそうな雰囲気を醸し出しているのもデザイン的特長だ。だが、メカメカしさが強すぎるということはなく、柔らかで絶妙なデザインバランスを保持している。
「デザイン的に最も重要なことは、前から見た時に“1本の線”に見えることでした。男らしさを主張するような必要はありません。前から見る1本の線が主、横から見た銃っぽさというのはあくまで従。内側を黒でまとめたことで、フロントのそれぞれのカラーよりも、内側は見た目に沈み込むので、コントラストの関係で前に主張してくることはありません。これにより、ノイズが少なく1本の線のように見えるのです」(山本氏)
このように掃除機という生活家電を絶妙なバランスのデザインに落ち着かせられたのは、実はデザイナーの山本氏自身の過去のキャリアにも関係しているのではないかと、商品企画部の北口氏は分析する。実は山本氏は入社してすぐに電動工具をデザインを担当し、その後、対極である「パナソニックビューティ」などの美容家電をデザイン。現在、その中間ともいえるコードレススティック掃除機のデザイナーになったという異色の経歴を持つ。これについて、本人の山本氏はどう思っているのだろうか?
「デザイナーとして最初に担当した電動工具は、正直あまりデザインを求められるようなものではありませんでした。実際に、現場の方々に話を聞いても、使い勝手についてはあれやこれや、いろいろ要望を話してくれるのですが、デザインについて言及されることはほぼなかったと記憶してます。次に担当した美容家電のパナソニックビューティは、逆に美しくなるために美しい道具であることは非常に重要で、デザインも気を使いましたね。この時に担当したフラッシュ脱毛機のデザイン経験が、実は今回の“iT”をデザインするにも役立ったかもしれません。というのも、フラッシュ脱毛機もコードレススティック掃除機と同様、引き出しや棚にしまい込んでしまうと、そのまま使われなくなってしまうものだったので、あえて出しっ放しにしておけるようなデザインにしました。本体にコードを巻き付け、ハンドルを台座に置いても、スマートな印象になるようにしています。それが今回の“iT”のハイブリットなデザインを完成できた理由かもしれません」(山本氏)
繰り返しになるが、今年は各メーカーが発売するコードレススティック掃除機は機能、デザインともに軒並み上質な“当たり”である。その中でもデザインと使い勝手の両面で存在感を示す“iT”「MC-BU500J」。注目の製品と紹介した理由がお分かりいただけただろうか。
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