マイケル・J・フォックスから知った米国社会の現実――翻訳家 入江真佐子さんあなたの隣のプロフェッショナル(2/4 ページ)

» 2010年05月22日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]
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日本人の想像を超える米国社会の“現実”

マイケル・J・フォックス『いつも上を向いて 超楽観主義者の冒険』。ラッシュ・リンボー、カールトン・D・ピアソンのエピソードについても、マイケルの考えが詳しく述べられている

 ハワイ、西海岸、ニューヨークなど、旅行する機会も多い米国という国について、われわれ日本人は、それなりに理解しているつもりになっている。けれども今なお、日本人にはなじみにくい側面が数多く存在するということだ。

 しかし難しいのは、そうした固有名詞だけではない。米国の有力者の言動や、それに対する社会の反応についても、日本人には想像もつかないようなエピソードがある。

 「(『いつも上を向いて』の中に)トークショーの司会者、ラジオパーソナリティとして有名なラッシュ・リンボーが、テレビ番組の中で、体を震わせたり、クネクネさせるなど、マイケル・J・フォックスのパーキンソン病の症状を面白おかしく真似てバカにするシーンがあります(参照リンク、YouTube)。これは、マイケル個人やその家族だけでなく、パーキンソン病の患者さん全体を愚弄し差別する行為ですから、こんなことをテレビ番組の中でやったとなれば、日本では大問題になるはずです。

 日本の有名男性キャスターが人気情報番組の中でそんなことをするのを想像すれば分かりますよね。間違いなく、番組は降板となるばかりか、テレビ界への復帰も難しいでしょう。ところが、ラッシュ・リンボーはその後も平然とマスメディアに登場し続け、マイケルへの攻撃を行っているのです」(入江さん)

 宗教問題が絡んでくると、さらに話は理解し難い様相を呈してくる。キリスト教の福音派(エヴァンジェリカル)は、全米に3000万人の信者がいると言われている。ハイヤー・ディメンションズ教会の創設者として5000人の信者を擁していた主教カールトン・D・ピアソンは、ABCニュースのインタビューに答えて、自分の人生を変えた啓示について、次のように語った。

 「ルワンダ難民の悲惨な状況を見ていて気がついた。人は死後、地獄に落ちるのではない。死後の地獄などないのだ。今生きて置かれている状況こそが地獄なのだ」と。ところが、この発言は神への冒涜とみなされ、ピアソンは、すべての社会的地位を失ってしまう。彼の信者も一斉に去った。

 その一方で、ピアソン糾弾の先頭に立った全米福音協会・会長のテッド・ハガードは、ゲイ同士の結婚を厳しく禁止していながら、自らは、密かにゲイから金銭授受を伴う性的なサービスを受け、さらにはその関係者から覚せい剤を買っていた。そしてそれが発覚しても、テッドには宗教的に全くおとがめがなかったという。

 「こういった点も、日本人には、なかなか理解できない部分だと思います」(入江さん)

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