菅首相が、1日でも長くトップでいるために藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年06月07日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 鳩山政権がつぶれ、副総理だった菅さんが新しい首相に就任した。そして記者会見では「経済成長、財政再建、社会保障を一体的に実現する」と語った。「友愛」とか「国民の命」とかを連発した鳩山前首相よりは、現実的な問題意識が鮮明で、安心感があるように思える。しかし菅総理の「経済理論」に疑問がないわけではない。

 過去の経済政策の失政が、この「失われた20年を生んできた」と菅新首相はこれまでの経済政策を切って捨てた。とりわけ小泉・竹中路線は、「デフレのときにデフレ政策を取った」と手厳しく批判をしている。それはデフレ状況にあるときに、企業がリストラをするように仕向けたということを指しているようだ。リストラされた労働者は当然のことながら消費を抑えるから、需要が抑制されて、デフレはますます解消されなくなるという理屈である。

財政再建が遅れるかもしれない

 確かノーベル経済学賞受賞者であるプリンストン大学のポール・クルーグマン教授は、著書の中で「経済について分かっていることはそれほど多くはない」と記していた。つまり問題が生じたときの解決策、例えばデフレをどう解消するか、というのは、よく分かっていないというのである。それにリストラ(人員削減だけを意味しているわけではない)をしなければ企業の競争力は回復せず、結局はリストラをさせないために融資で企業を生かし続けることになる。これはいわゆる“ゾンビ企業”そのものである。ゾンビ企業を存在させることで金融機関は潜在的な不良債権を抱えるし、産業の新陳代謝が阻害され、結果的に経済から活力を奪う。これは経済学の理論ではなく、日本が実際に経験したことではなかったのだろうか。

 もう1つ納得がいかないのは、経済成長と財政再建、社会保障を一体的に実現するという理屈だ。増税をして(菅首相は財務大臣になって急に財政再建論者になった)も、国家がカネの使い方を間違えずに雇用を生み出すようなやり方をすれば、増税は必ずしも景気にとってマイナスにならないとする。また医療や介護を「成長産業」として位置付け、こうした分野で雇用を伸ばすのだとも言う。

 確かに医療や介護は「成長分野」に違いない。これから団塊の世代の高齢化が進むにつれ、医療費がかさむからである。現在の医療費はだいたい34兆円ぐらい。医療費の単価が違うのでなかなか比較しにくいが、GDP(国内総生産)比でみると、OECD(経済協力開発機構)平均がほぼ10%であるのに比べると、日本は8%ぐらいだ。その意味では医療費はもっと増えてもおかしくはない。

 しかし問題は、その増えた医療費をいったい誰が支払うのかということである。一般国民は、健康保険料を支払って、なおかつ窓口で通常3割の自己負担分を支払っている。窓口で払う金額をさらに増やしたり、あるいは保険でカバーする金額を増やすために保険料を引き上げるといったことが現実的に可能なのだろうか。そもそも医療費の増加分をすべて国民の負担ということにすれば、普通の消費を抑えることになって、「医療産業」はよくなっても全体的にはプラス、マイナスのどちらにころぶのだろうか。

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