読むことができない発売前の記事……記者はこうして手にする相場英雄の時事日想(1/3 ページ)

» 2011年03月10日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 本稿読者の中で、FXや株式投資を手がけている向きは少なくないはず。各種の金融取引を手がける間、「明日発売の経済誌によると……」などとする通信社電などを目にする機会が頻繁にあるはずだ。また、テレビの情報番組、あるいは一般紙上でも1、2日後に発売の雑誌記事を引用する原稿が多々ある。

 今回の時事日想では、発売前の記事、あるいはゲラをどのように入手するのか、その一端をご紹介する。同時に、ネット経由の一次情報が溢れる中、既存メディアのあり方を再考する。

告発記事から政治家のスキャンダルまで

株式市場や為替相場が乱高下すると、デスクから「原稿を出せ」と催促がくる

 筆者は通信社記者時代、外為や株式市場担当を長年勤めた。この間、企業の不正を暴く告発、ときには現役の首相を巡るスキャンダルなどの週刊誌、あるいは月刊誌の報道で相場が乱高下する場面に遭遇した。

 筆者は、刻一刻と値が動く市場と対峙する担当記者だったため、「記事が出るらしい」という噂を耳にするたび、これを1つ1つ潰す必要に迫られた。

 速報第一、新聞・テレビなど報道各社にニュースを卸す通信社記者という業務の性格上、市場が動いた要因を短い記事にまとめることが求められたからだ。

 「◯△社の主力製品に不具合=大規模リコールへ」――雑誌でこのような記事が掲載されることが漏れれば、株価に直結する。「首相に重大な健康不安」――といった内容ならば、国全体の信用に関わるため、円相場が下落圧力を受ける、といった具合なのだ。

 市場の値動きが荒くなれば、デスクから原稿を出せと矢のような催促がくる。同時に、日頃情報交換している市場関係者からの問い合わせも急増する。こうした環境下で、噂の裏付けをとるのも通信社記者の仕事の1つなのだ。

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