帝国ホテルに学ぶ、コンシェルジュサービスの本質(2/3 ページ)

» 2012年06月15日 08時00分 公開
[松井拓己,INSIGHT NOW!]
INSIGHT NOW!

コンシェルジュサービスの3つのポイント

 では、このロビーマネジャーが提供するような質の高いコンシェルジュサービスを、ほかのサービス業でも実現するために、押さえるべきポイントは何なのでしょうか? サービスサイエンスの観点も踏まえて、3つのポイントを挙げたいと思います。

1.顧客に寄り添うサービスを設計する

 サービス設計といっても難しい話ではなく、サービスプロセスを書いてみるという程度でも十分価値ある気付きにつながると思います。まず、自社のサービスのプロセスを書いてみてください。

 ここでよく描かれるサービスプロセスは、提供者側のプロセスだけ(例えば「お客さまをお迎えする」など)であるケースが多いのですが、ここでのポイントは「お客さまに寄り添う」サービスを設計するために、お客さん側のプロセス(例えば「お店に入る」など)も描くことです。そうすることで、コンシェルジュサービスに必要なさまざまな気付きが得られるはずです。

 「お客さまがサービスを受けられる前にはどんな事前期待や不安を持っていそうでしょうか?」「お客さまを長くお待たせてしまっているプロセスはありませんか?」といったことです。

 このように事前にお客さんに寄り添うサービスを設計することで、お客さんへの共感性を高めるとともに、組織としてコンシェルジュサービスの要点を共通認識しておくことが重要だと思います。

2.顧客に言われる前に事前期待を感じとって応える

 コンシェルジュサービスにとって最も重要なのは「共感性」です。特にお客さんの4種類の事前期待(1.共通的事前期待、2.個別的事前期待、3.状況で変化する事前期待、4.潜在的事前期待)の中でも、個別的事前期待と状況で変化する事前期待への共感性を発揮することが重要です。

 さらに「お客さまから言われる前に」その事前期待に応えることで感激していただくというハイレベルなサービス提供が求められます。逆に、お客さんに言われた通りにサービスを提供しても、なかなか「気の利いたサービス」という評価はいただけないですよね。

 では、共感性を発揮して、お客さんから言われる前に事前期待に気付くためにはどうしたら良いのでしょうか。以前、スターバックスの記事でも触れましたが、特にコンシェルジュサービスのような気付き型のサービスでは、マニュアル化が難しいという点で悩まれている方が多いのではないでしょうか。

 そこで、まずは先述した「顧客に寄り添うサービスを設計する」ことが有効になります。

 そして、個別的事前期待については、顧客データベースや顧客カードを活用して、お客さん個人に合わせたサービス提供を行うことが有効です。顧客データベースは持っていても、なかなか顧客との接点で顧客満足向上のために有効活用できていないケースが多いようです。そこで今一度、現場での活用方法を見直してみるといいかもしれません。ちなみに、帝国ホテルの「帝国ホテル十則」という規範にも、個別的事前期待に応えることにつながるものがあります。

 「研究:お客さまの趣味、嗜好まで研究してください」

 「記憶:お客さまのお顔とお名前を努めて速やかに覚えてください」

 また、状況で変化する事前期待については、マニュアル化はもちろん、顧客データベースでも把握は困難です。そこで、次の2点が有効だと考えています。観察のポイントやサービスマインド・サービスの本質について教育やトレーニングを行う。そして、状況対応サービスの成功事例を組織で共有すること。

 帝国ホテルのロビーマネジャーの仕事の中でも、「困っている様子のお客さま」「待ち状態のお客さま」への対応は、状況で変化する事前期待に応えるサービスになっていると思います。

3.現場への権限移譲

 3つ目はコンシェルジュサービスを提供するスタッフへの権限移譲です。コンシェルジュサービスでは、お客さんからの例外要求に対応する必要があります。いただいた例外要求を受けるかどうか、お客さんのひっ迫感などを感じ取りながら、その場その場で判断して行かなければなりません。その際に毎回「上司に承認を得てきます」ということでは、コンシェルジュサービスは提供できません。そこで現場に対して、一定範囲での権限移譲がなされなければならないのです。

 有名な話ですが、ザ・リッツカールトンでは現場のスタッフに1日2000ドルまでの費用を使っていいという権限移譲がされており、そこから感動サービス秘話が数々生まれています(もちろん権限移譲以外にも、必要な要素はありますが)。

 このように、コンシェルジュサービスを提供するためには、経営側がどれだけ現場に対して権限移譲できるかも大きなポイントになります。

Copyright (c) INSIGHT NOW! All Rights Reserved.