「世界には利潤追求のビジネスしかないのが問題」――ノーベル平和賞ムハマド・ユヌス氏(2/3 ページ)

» 2012年07月27日 11時32分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

社会的問題を解決するために50以上の事業を立ち上げる

ユヌス そこで目にしたのは、ひどい現象でした。高利貸しが村にはびこっていて、わずかなお金しか持っていない村人たちから搾取していくわけです。そのようなことがあちらこちらで行われていて、本当にショックでした。

 その時、大変な苦痛を伴う高利貸しからお金を借りるくらいなら、私だってお金を貸せると思いました。最初に私が融資したお金はわずかな額でした。わずか27ドル、42人のためにお金を貸しました。私が何も条件を付けずにお金を渡したことで、みんな驚きました。まるで何か奇跡を起こしたかのようでした。

 こんなことでたくさんの人が喜ぶのであれば、もっと多くの人を喜ばせたいと思いました。そこで私が考え出したアイデアは、「融資した後、いかにきちんと回収、返済させるような仕組みを作るか」ということです。そして、同じような形でいろんな人に融資していくことで、たくさんの人が支持してくれるようになりました。それを持続させるために、グラミン銀行という形にしました。それがどんどん広がって、国中に融資することになります。

 こうしてマイクロクレジットということが始まったわけですが、それまでこの言葉は辞書にはありませんでした。誰もそのようなことをしていなかったからです。新しい名称が付き、考え方もコピーされて、普及するようになりました。バングラデシュで始まったグラミン銀行から借り入れをしている人は850万人に達し、大多数が女性です。小口融資として毎年15億ドル貸し出しています。

 では、そうした融資を受けた女性たちはいったい何をしたのでしょうか。彼女たちは小さな起業家になりました。例えば、にわとりを飼って卵を売る、野菜を栽培して売る、牛を飼って、ミルクを売る……お金を手にした女性たちはさまざまなアイデアを駆使して起業しました。

 私たちは子どもたちを学校に行かせられるように、こうした女性たちを啓蒙しました。彼女たちはみんな読み書きできません。しかし、次世代がそうなってはいけない。ここでストップしなければいけないということで学校に子どもたちを行かせられるようにしました。

 彼女たちの子どもがきちんと学校を卒業し、その後さらに高等教育機関に行けるよう教育ローンも私たちが融資しました。そして、医者になったり、エンジニアになったり、教授になったりと、プロフェッショナルの人材が育ったわけです。

 ですから、グラミン銀行の融資先には非常に興味深い家族たちがいます。親は教育を受けておらず、読み書きができませんが、子どもたちは違います。外国語を堪能に話すし、専門職に就くという新しい世代が育っています。

 その後、特定の社会的な問題を解決するため、50以上の事業を立ち上げました。その一例として、看護学校を立ち上げました。グラミン銀行の融資先の子女が高校を卒業した後、この看護学校に行って、高度な看護師の資格をとります。世界でもそうですが、バングラデシュでも看護師が10万人不足していると言われています。きちんと教育を受けて、語学研修も受けて、PC操作も熟知して、自分で問題を解決できるだけの十分な力を得て、どこに行っても専門職として働けるような、すばらしい看護師がたくさん生まれました。

 私たちは学費の心配をすることなく、勉強に集中してもらうために教育ローンを提供していますが、この看護学校自体は授業料で経費をまかなっていて、持続的な運営を可能にしています。慈善や助成金によるものではありません。

 また同様にソーシャル・ビジネスとして、ある病院を作りました。ソーシャル・ビジネスとは、ある問題を解決するために作られた無配当の企業のことです。この病院では、白内障を専門に治療します。それまで白内障は治療できず、潜在的に苦しんでいる人がたくさんいたのですが、初めて白内障専門の病院を設立して、年間1万人の患者を治療しています。治療費は払える人には払ってもらいますが、払えないのであれば免除して、払える人から払ってもらったお金ですべてをまかなっています。その病院は3年半で黒字になりました。そして、2つ目を作ることになり、今度は3年で黒字となり、3つ目、4つ目の病院を継続して作っています。

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