中堅社員の心を折らないために、上司がやるべきこととは何かサカタカツミ「新しい会社のオキテ」(2/3 ページ)

» 2014年06月23日 09時37分 公開
[サカタカツミ,Business Media 誠]

ビジネス社会のスピードアップが、朝令暮改を蔓延させる?

 最近のビジネス社会のスピードは半端ではありません。以前は3年計画や5年計画、10年以上の中長期計画を立て、それを粛々と実行していくという経営スタイルが当然であり、思いつきや潮流に流される経営は、是とされていませんでした。いまも百年計画クラスの、それこそ自分がいなくなった先のビジョンを打ち上げて、ともに働く人たちを奮い立たせるという方法論を取る企業もありますが、現実的には3カ月単位、もっと早いところではひと月単位で、いろいろなことを見直しています。そうなると、前回の会議では是とされていたことが、次の会議では180度ひっくり返ることも少なくありません。結果として、朝令暮改ともいえる指示で現場は混乱してしまいます。

 例えば、ある中間管理職が「これからはスケールアップが大事である。だから、多少コストをかけても大きく宣伝をして、リーチできる人たちを増やすべきだ。そういう方向で事業の舵を切ってくれ」と指示したとします。しかしその1カ月後に「どうやらスケールだけを追っていても、事業として利益が出にくい構造であることには変わりがない。売り上げだけではなく、改めて利益を追わなければ。そのためにはコストはかけるべきではない」と自分の上長から言われたとすると、中間管理職は、1カ月前の自分の指示を即座に撤回して、新しい指示を出す必要があるのです。

 ここまで読んで「それって、昔から変わらないのでは。仕事とはそういうものだと割り切らなくちゃ」という人も多いでしょう。まさにその通りなのですが、そのスピードが年々早くなっている、ということに注目してほしいのです。成果を求めるスピードも早くなっているし、方向転換を余儀なくされるスピードも早くなっている。皆さんも実感があるのではないでしょうか。まだ手をつけたばかり、という状態なら方向転換してもダメージは小さいのですが、仕上げにかかっている時点で中止したり、新しい方向へ転換したりとなると、現場のモチベーションダウンは必至です。

朝令暮改的な指示が、若手から中堅への信頼感を低下させる

 会社がこういう状態だと、中堅が若手に指導をしていても、ひっくり返されることが、度々発生します。若手にしてみれば「自分の思い通りにするのではなく、先輩の指示に従って仕事をしてきたにもかかわらず、その指示で仕上げた仕事にダメ出しされる」ということが続けば、当然、中堅への信頼は低下します。「事前に相談をしてくれ」と、中堅が若手に口を酸っぱくして言ったとしても、「適当に流しておかないと、その指示を真に受けたら後でやり直しをさせられる。馬鹿を見るのはこりごりだ」と思うようになります。

 中堅にしても、若手に適切なアドバイスをしようと頑張りますが、上司である中間管理職をもってしても、予測ができない指示の変更です。上司よりも持っている情報量が少ない中堅が、上から突然降ってくる指示を、事前に予測するのは困難です。自身の経験からアドバイスをしようとしても、これだけ速いスピードで判断基準、いや、判断そのものが変わってしまう状態への経験を持っているという人は、それほど多くいません。そう、中堅自身が激動のビジネス社会に翻弄されているのです。

 余談ですが、いま転職市場で求められる人材のひとつに「多くの経験を持っている若手」というターゲットがあります。若手で経験が豊富、ということは、いまのビジネス社会のスピードに十分対応ができる可能性がある、ということです。立ち上げた、潰した、改良した、さらに大きくした、という“速さに対応できる能力”も求められる時代になっている。これはとても興味深い現象です。

 中堅社員は、若手からは信頼を失い、上司からは指導力不足を疑われるという、挟み撃ち状態になっている。そんな彼らを、能力不足だと責めるのは、酷だといえるかもしれません。

(写真はイメージです)

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