太郎商店のコレジャナイロボは2人の“バロムクロス”で生まれた――武笠さん・坂本さん:達人の仕事術(2/2 ページ)
「これじゃなーい!!」と子供が叫ぶような、絶妙な偽物感が売りの「コレジャナイロボ」。制作したのは武笠太郎さんと坂本嘉種さんのユニットである太郎商店だ。2人の発想力の源泉は――。
「できるかできないか」ではなく「やるかやらないか」
大学を卒業し、玩具メーカーに就職した武笠さんは、いつかは独立するだろうなと漠然と思っていた。いつも明るい武笠さんだが、5年前の28歳の誕生日には真剣に悩んだ。今の仕事に大きな不満があるわけではなかったが、独立して好きなことをやりたい――。だが、よくよく考えると、将来結婚して子供が産まれても食っていけるのか、資金はどれくらい必要なのか、心配事が頭をよぎる。
「でも、できるかできないで考えるのではなくて、やるかやらないかで考えてみようって決めたんです。やるかやらないかだったら、やる! 馬鹿みたいな決断でしたが、そこから2年間を準備期間として、30歳で独立しようと決めました」
アクションリング以降、一緒にユニットを組んでいた坂本さんにも声をかけた。「一緒に独立しませんか」。当時、ゲームメーカーに勤めていた坂本さんは聞いたときこそ、「マジで?」と驚いたが、内心では「武笠は一度決めたらやる男だから」と独立を“覚悟”したという。
それから1年間、独立へ向けて週に1回ファミリーレストランのロイヤルホストで会議した。2004年4月に、有限会社ザリガニワークスをスタートした。武笠さんが代表取締役、坂本さんが取締役――といっても社員はこの2人だけなので、企画・製作から具材仕入れ、販売・集金回収まで、リスクも労力も50対50。プロダクトを作るところからお客さんと顔を合わせて、商品を渡すまで「全部2人でやる」のだという。
手作りにこだわる
商品を販売するとなると、営業が不可欠だが、今のところザリガニワークスから営業に出かけなくても東急ハンズ、フジテレビなど大手からの引き合いが途切れない。インターネット上でもかなりの評判を呼んでいるにも拘らず、機械による大量生産ではなく、未だに手作り生産を貫いているのはなぜだろう。
「コレジャナイロボを最初から3000個売らなきゃいけないという生産態勢だと、利益を出すのが大変です。そうなると簡単には企画が通りません。サラリーマン時代の経験から知っていますし、そういう状況になるのは僕もイヤなんです。面白いものは、1個でも作って売ってみようと」(武笠さん)
このフットワークの軽さは、相方の坂本さんも同じ。「量産前提にしちゃうと、企画自体も安心できるものにしなきゃいけなくなります。例えば3000個売れるものとなると、当初の面白かった部分が、スポイルされてしまったり、別の意味の物になりかねません」
手製だからこそ、当初こだわりを貫徹できる。例えば、コレジャナイロボの顔も「しょぼくなきゃいけない」。だからコレジャナイロボの顔は武笠さん自身が手描きするというルールになっている。坂本さんが描くとカッコよくなってしまって、コレジャナイロボではなくなるからだ。
ハイマッキーを箱買い
武笠さんがコレジャナイロボの顔を描く時に使うのはゼブラの「ハイマッキー」。なんと箱買いをしている。「描き続けているとペン先がつぶれてラインが太くなるんです。コレジャナイロボの目鼻口が太くなってくると、意外とかわいいでしょう? それだとダメじゃないですか。細くてへぼーい感じが出ないといけません。そろそろ太くなったなと感じたら新しいハイマッキーをおろすんです」
坂本さんもペンへのこだわりは強い。ラフを描く時に使うのは、握りの太さが気に入っているゼブラの多機能ペン「シャーボ」。特にシャープペンをよく使う。イラストを描く時はぺんてる独自の筆ペン「ぺんてる筆」を長く愛用している。
デザインフェスタへの出展もこだわっている。物作りの原点という思いだけでなく、同時にリサーチの場でもあるからだ。今もバイクに商品を乗せて会場のビッグサイトまで駆けつける。ただし、出展してもなかなか売れない。「その手ごわいところが何とも面白いんです」と武笠さんは笑う。
「デザインフェスタは、ブースが3000近く出るビッグイベントです。若い子たちは全力投球の作品を売っています。お客さんも学生が多かったりするので、お小遣いに余裕があるわけじゃありません」。ビッグサイトまでの交通費や入場料などを考えると、予算は自然と限られる。そんな中で「売れた!」となれば、喜びもひとしおだろう。
新商品はボツから生まれた
ボツになった作品も少なくない。例えば、2007年1月に発売した新商品「格付け表彰台」は、過去にボツになったものの中から生まれた。以前、フィギュアブームが下火になったタイミングで、フィギュアの企画の依頼を受けた。売り場は飽和状態で、コレクターの机の上には置き場もないくらいフィギュアが並んでいる状況だ。
武笠さんは、「大手メーカーが持っている有名キャラクターを押しのけて、新しく僕らが作ったキャラクターを置いてもらうスペースを作るのは無理」と冷静だった。「それだったら」と考え方を変えて制作したのが、フィギュアを乗せるための「格付け表彰台」なのである。「そのフィギュアたちを活かした形で何かを作ったら僕らにも入り込む余地があるはずだ」という発想の転換だ。企画としてはタイミング合わず、当時は残念ながらボツ。しかし、2007年1月に発売が決まった。
こうした1度ボツになった作品は山のようにあるという。「ボツになった作品は世に出るタイミングが合わなかっただけなんです。アイデア自体は決して劣っていない」(坂本さん)。だからこそ、ザリガニワークスにとってボツ作品は「宝の山」なのだ。
刺激を受ける街・渋谷
坂本さんはデザイナーとして、よく渋谷の街を歩く。看板の書体やブランドロゴを見て、「華やかで高級感があってガツンと印象を受けるのは何故なのか?」などと思うのだ。「ただ歩いて街を見るんです。渋谷って毒がきついでしょ。現代っぽさがが良くも悪くもむき出しで、そういう毒気に当てられに行くんですよ」。
武笠さんがよく足を運ぶのはホームセンター。お勧めは成城にある東宝日曜大工センターで、最近のホームセンターのようにこぎれいではなく、おがくずなどが落ちてそうな工場のような雰囲気がお気に入りだ。そこに並んでいる部品たちが、何かの材料にならないかを考えるのが幼い頃から好きだった。
出歩いてインスピレーションが浮かべばメモを忘れない。2人ともMacユーザーだが、メールはOutlook、ブラウザはInternet Explorerと“保守派”だ。とはいえ、突然アイデアが浮かんだら、携帯電話のメールを使う。愛用のMacへ送信し保存しておくのだ。
ごちゃごちゃしたおもちゃ箱のような一室で、坂本さんが「最近始めた」という筋トレをし、武笠さんがトイレでマンガを読む。アイデアがまとまった瞬間に、お互いがお互いを「天才!」と言い合う。“バロムクロス”の瞬間だ。その声とともに、今度はどんな面白グッズが生まれるのだろう。
お名前 | 武笠太郎(むかさ・たろう) |
---|---|
PC | iMac(MacOS 9) |
携帯電話/PDA(データ通信カードを含む) | auのG'zOne W42CA |
デジタルカメラ | FinePix F440(坂本さんと共用) |
ブラウザ | Internet Explorer |
収集ツール(RSSリーダーなど) | − |
メールクライアント | Outlook |
インスタントメッセンジャー | − |
よく使うショートカットキー | − |
ファイル整理ツール(デスクトップ検索を含む) | − |
バックアップツール | − |
検索サイト | Yahoo!JAPAN、Google |
Webメール | − |
ブログ | livedoor Blog(会社) |
SNS | − |
ソーシャルブックマーキング | − |
Wiki | − |
影響を受けた人/本/Webサイト | 坂本さん、明和電機 |
座右の銘 | 暗いと不平をいうよりも進んで明かりを付けましょう |
手帳/ノート | ケータイメールでアイデアを送信 |
ペン | コレジャナイロボの顔を描くのはハイマッキー |
その他小物(ICレコーダ、ポストイットなど) | − |
お名前 | 坂本嘉種(さかもと・よしたね) |
---|---|
PC | Power Mac G4(MacOS 9) |
携帯電話/PDA(データ通信カードを含む) | NTTドコモのSH902i |
デジタルカメラ | FinePix F440(武笠さんと共用) |
ブラウザ | Internet Explorer |
収集ツール(RSSリーダーなど) | − |
メールクライアント | Outlook |
インスタントメッセンジャー | − |
よく使うショートカットキー | − |
ファイル整理ツール(デスクトップ検索を含む) | − |
バックアップツール | − |
検索サイト | Yahoo!JAPAN、Google |
Webメール | − |
ブログ | livedoor Blog(会社) |
SNS | mxi |
ソーシャルブックマーキング | − |
Wiki | − |
影響を受けた人/本/Webサイト | 赤塚不二夫 |
座右の銘 | 親より先に死なない/幸せは権利じゃなくて義務なんだ |
手帳/ノート | ケータイメールでアイデアを送信 |
ペン | 毛筆(ぺんてる筆)、シャーボプラスワン |
その他小物(ICレコーダ、ポストイットなど) | − |
取材 泉あい(いずみ・あい)
1966年生まれ。東京在住の独身。音楽講師、OL、派遣社員を経て、2004年12月末退職。2005年1月、ルポライター・ジャーナリストを目指し、インターネット上で取材活動を開始した。ブログ「Grip Blog」などで、過去の取材活動を掲載中。
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「コレジャナイロボ」や「自爆ボタン」などで有名な「太郎商店」は、フジテレビと共同で、“1点もの”のデジタルコンテンツを開発する。「自爆ボタン・デジタル」(略称:自デジ)などをリリース予定だ。
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