自分に1300万円賭けられますか――MBA取得の利回りはどれくらい?:山口揚平の時事日想
最低2年間は収入なし、費用は約1300万円――私費でMBAを取得するとなれば、ざっくり見積もってこれだけの投資が必要になる。MBA留学はビジネスパーソンにとって、ある意味最大級の自己投資。どれくらいの利回りで回収できるのか、まずはシミュレーションしてみよう。
著者プロフィール:山口揚平
トーマツコンサルティング、アーサーアンダーセン、デロイトトーマツコンサルティング等を経て、現在ブルーマーリンパートナーズ代表取締役。M&Aコンサルタントとして多数の大型買収案件に参画する中で、外資系ファンドの投資手法や財務の本質を学ぶ。現在は、上場企業のIRコンサルティングを手がけるほか、個人投資家向けの投資教育グループ「シェアーズ」を運営している。著書に「なぜか日本人が知らなかった新しい株の本」など。
アビーム M&Aコンサルティングの岡俊子社長は、筆者が社会人になって以来ずっとお世話になっている恩師だ。筆者は今でも会うと必ず「早く留学しなさい」とお説教される。そのたびに、「いや、なかなか忙しくて……」などとお茶を濁しているのだが、ペンシルバニア大学のビジネススクールであるウォートン出身の彼女にとって、MBAはそれだけ価値のある選択肢ということなのだろう。
もちろん、留学経験のない筆者はそのあたりは想像するしかできないが、それでもMBA留学が良い判断なのかどうか、ざっくりとそろばんを弾くことだけはできそうだ。今回はMBAの取得がもたらす人脈やスキルといった価値は排除して、単純に年収アップの観点からMBA留学が妥当かどうかを検討してみよう。
ざっくりとコストを計算
昨今は社費留学の比率が下がってきているので、ここでは費用は自分で払うことを前提として考えよう。
まずMBAとは経営修士号の意味なので、一般に取得するには2年必要になる。留学に必要なコストを考えると、受験までにかかる費用(予備校・出願)が300万、留学費用が1000万といったところだ。これとは別に、留学期間中は給料が入らないので、もし留学前の年収が700万だとすれば2年で1400万円ほどの機会費用がかかる(=収入がなくなる)ことになる。すると合計で約3000万ぐらいのコストがかかることになる(ただし、勉強期間の1年間に働いていればここから700万の年収分は控除される)。
次に、MBAを取得した場合に収入がどう変化するかを考える。MBA取得者の平均就職時年収が約1000万円といわれるので、以前の年収(700万円)より大幅に向上することになる。また幹部候補生として、今後の収入の伸びもMBAをとらなかった場合よりは高いと想定して、55歳までの間にMBAを取得した場合と、しなかった場合の年収をそれぞれ計算する。
このようにして、最初に費やしたコストとその後の年収アップ状況を勘案して計算したのが下の表である。この計算では、MBA留学の利回り(内部収益率)は、28歳に留学を決意したとしてその後、55歳までの28年間で約20%ということになる。20%の利回りというのは相当高い水準である。不動産や株式投資などで利回り20%を長期に渡って達成してゆくことはとても難しい。その意味でMBA留学は良い投資といえるのではないだろうか?
期待や妄想が膨らむときこそ、ざっくりと試算を!
もちろんこれは簡単な試算なので、実際にはこのままの数字にはならない。税効果や退職金の違いがあるし、現実には留学したもののMBAを取得できなかったり、留年したりということもあるだろうが、それはここでは想定していない。またMBA留学のもたらす様々な価値、例えば価値観や人脈の広がりといった、定量化しづらい価値についても考慮していない。
とはいえ、このように前提を置きながら計算して数字を出してみると、物事の判断をつけやすくなるのではないだろうか。MBA留学といった大きな話になるとどうしても期待や妄想ばかりが膨らみがちだが、このように価値を定量的に測定してみることによって、第三者的な視点を持つことができるようになる。「こういった視点は大切だよな、私もそろそろ真面目に勉強しないといけないかな」――と、Excelで計算しつつ思う今日この頃である。
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