米国が最近、温暖化問題に熱心な理由:藤田正美の時事日想
2001年に京都議定書から離脱するなど、地球温暖化問題に対して消極的だったブッシュ政権。しかし、今年の1月にガソリン消費量削減の目標値を発表するなど、最近は事情が変わりつつある。なぜ米国は突然温暖化問題に積極的になったのか? その理由は――。
著者プロフィール:藤田正美
「ニューズウィーク日本版」元編集長。 東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
米国にUSCAPという組織がある。United States Climate Action Partnershipで、USCAP。今年、2007年1月19日に設立されたこの団体の目的は、米連邦政府に対し、速やかに温室効果ガスの排出を規制するよう求めるものだ。設立メンバーは、GEやデュポンなど大手企業10社とNGO4団体である。
この団体の基本方針にはこうある。「地球規模の気候変動に責任を持つこと。技術革新のためのインセンティブを創出すること。環境に負荷をかけないよう効率的になること。経済的機会、優位性を創り出すこと。より大きな影響を受ける産業セクターに対してフェアであること。素早いアクションを報奨すること」(参照リンク)
現在、この組織には29に及ぶ大企業並びにNGOが加盟しており、温暖化問題に対する米国社会の意識が高まっていることを象徴している。
米国はなぜ地球温暖化問題に熱心になったのか?
企業だけではない。いま米国では、州政府も地球温暖化問題に熱心だ。とりわけハリウッドスターのアーノルド・シュワルツネッガー・カリフォルニア州知事は、最も厳しい規制を州内企業に課している。
これまで米国は、共和党政権になって温暖化問題にはずっと消極的であった。その理由は、“中国やインドといった発展途上国が入らない温室効果ガス規制は効果がない、さらに米企業の競争力が削がれる”というものだった。だからブッシュ政権は京都議定書から離脱したのである。その当時は、温暖化という議論そのものが「眉ツバ」という見方も根強くあったが、状況は一変している。
2005年にメキシコ湾で発生したハリケーン・カタリーナによってテキサス州などで大きな被害が出たこと、さらには「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が今年提出した気候変動に関する第4次評価報告書など科学的知見が積み上がっていること、こうした状況の変化が米国の企業や州政府の態度に大きな影響を与えてきた(参照リンク)。
連邦政府が有効な温暖化対策を打ち出さないままに、各州が規制策を打ち出すのは企業にとっても好ましくないという「思惑」もある。しかし企業を突き動かしているのは、ここで温暖化防止技術に乗り遅れることは、企業の競争力にとって致命的であるという認識が大きいようだ。それはUSCAPの基本方針に「技術革新のためのインセンティブを創出すること」と書いてあることからもうかがえる。
ブッシュ政権の本音は「次に任せる」?
たしかに日本企業などは、2度にわたる石油ショックの中で、省エネ技術に磨きをかけてきた。このおかげで日本のエネルギー効率は米国の2倍と言われている。日本企業はこの技術を中国に輸出することにより、温室効果ガスの排出権を獲得しているが、米国企業はこれを指をくわえて見ているだけだ。連邦政府が企業の競争力を保護するために排出規制に消極的であることが、むしろ米企業の競争力を阻害しているといえる。
同時に、地球規模のことを考えたとき、米国が動かなければ、中国やインドといった国々がポスト京都の温室効果ガス規制の枠組みに参加することはありえない。州政府の動きや米企業の動きを実効性のある二酸化炭素排出削減に結びつけていくには、なんと言っても連邦政府が規制に乗り出すことが必要だ。
ブッシュ政権は2008年に主要排出国で二酸化炭素排出削減の話し合いを行いたいとしている。6月のサミットでも、この問題で、独メルケル首相や仏サルコジ大統領と大激論したと伝えられている(6月11日の記事参照)。いちおう米国も各国の懸念を共有することになりはしたが、ブッシュ政権の本音は「次の政権に任せる」ということだろう。
大企業を中心とするビジネス社会が、それでもブッシュ政権を突き動かすのか、それとも民主党政権ができるまで待たなくてはならないのか。米国の企業経営者でなくても気になるところだ。
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