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スターバックスコーヒージャパン「be juicy!」――思い付きではなく、お客様を想う 新連載・小西賢明の「お客様を想え。」(2/3 ページ)

マーケティング分野・新規事業分野を中心にプロジェクト支援などを務めてきた小西賢明氏が、ちまたの気になる商品・サービスのマーケティング戦略を独自の視点で分析する新連載、「お客様を想え。」。第1回に取り上げるのは、スターバックスコーヒージャパンがカゴメと共同開発した「be juicy!」だ。

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「コーヒー」と「ジュース」と「マフィン」の朝食?!

 2007年5月末にスタバは、カゴメと共同開発したジュース「be juicy!」の販売に乗り出した。100%フルーツジュースで「マンゴー&オレンジ」味と「ストロベリー&バナナ」味。180ミリリットル入り、可愛らしくオシャレなパッケージである。

 いわく、健康にこだわる消費者に対応するために拡充された「ウェルネス・セレクション」(参照リンク)の基幹商品に当たるのが、このbe juicy!だ。(ちなみにウェルネス・セレクションとして他には、「豆乳バナナマフィン」や「レモンズッキーニケーキ」、「be juicy! kids」など10製品が開発されている)

 be juicy!に対しては「素敵!」という声も「おいしい!」という声も、勿論ある。ただ、スタバのような店舗ビジネスについて考える際には、個別の商品の魅力について議論するだけではなく、それがビジネス全体にどのような意味をもたらすかにも想いを巡らしてほしい。例えば、「誰をターゲットにしたのか?」「誰に『愛されたい』と思ったのか?」などだ。

 スタバのホームページなどを見ると、健康にこだわりを持つ消費者をターゲットとしているようだが、だからと言って、これまでと全く違う客層の獲得に乗り出しているというわけでもなさそうだ。ウェルネス・セレクションの説明書きにある、「体にちょっといいことを求める時の選択肢」という文言が表しているように、狙いは、スタバやスタバ的な世界観を好んで活用しているうえ、さらに健康にもこだわりを持つ消費者。しかも、パッケージなどを見る限りでは、女性の利用を見込んでいるようだ。

 しかし。ここで疑問がわく。「スタバやスタバ的な世界観を好んで活用している」上に「健康にこだわる」「女性」。スタバは彼女達にこの商品を、どう手に取らせたいのか?どういう利用シーンを想定し、どんな価値を出そうとしているのか?

 例えば出勤前にスタバの価値の象徴である「コーヒー」を飲みつつ、この「ジュース」を飲んで、「マフィン」などを食べるスーツ姿の女性の姿が目指すもの?……うーん、食べすぎじゃない?

 決して冗談で言っているのではない。実際にスタバに足を運んで飲んでみれば分かる。be juicy!はそれなりにボリュームがある。飲みごたえもしっかりしていて、逆に言えば重い。果たして、女性の顧客はこれをコーヒーと一緒に飲めるのか?

 私には、女性がこれを、スタバの価値の象徴であるコーヒーと併せて飲むようには、正直あまり思えない。それでは、ちょっと飲みすぎだ。となると、ジュースとマフィンだけで(つまり、肝心のコーヒー抜きで)食事を摂るという利用シーンになると思うのだが、それって、スタバである必然性があるのだろうか。コーヒーを核にしたスタバの商品群の中で、be juicy!はその居場所をいまだ見出していないように見える。

 コーヒーを必然としない店舗コンセプトへの脱皮を本気で進めているのならともかく、コーヒーと一緒に飲めるような設計になっていない商品を、わざわざスタバが積極的に売り出す意味合いが、私にはうまく見つけられない。果たして、それで、「売り込みに行かなくても、お客様がご購入しに来てくださる」状況を作り出すことはできるのか。どうなのか。

 知っている人もいるかもしれないが、スタバは以前、ジュース飲料として「ダブルスクイーズ」という商品を出していた。バナナとラズベリーのミックスジュースで、マニアには愛されていた。でも爆発的なヒット商品ではなかった。理由は味云々の問題ではなく、「スタバでジュースを飲むシーン」を積極的に作り出せなかったからではないかと想像している。

 その上で、今回のbe juicy!はダブルスクイーズに取って代わるようにして生まれた。更に言えばこれはもはや傍流の一商品ではなく、ウェルネス・セレクションというスタバにとって重要なカテゴリーの基幹商品に位置づけられている。

 しかし。「どういうシーンで味わうか」という提案に本質的な改良が施されているようには見えない。位置づけだけを変え、シリーズ化したところで、顧客の「ジュースを飲む」行動に変化を与えるような提案ができない限りは、be juicy!がダブルスクイーズを超えることはできないと思うのだが。

 「コーヒー」と一緒に朝食や昼食を摂る。しかし健康は気になるので果物をドリンクで摂る。例えばホテルのビュッフェでコーヒーと果物ジュースを飲むように。そのためには例えば、最適な量の設計が必要だ。作り手は、そこに想いを馳せているのだろうか?

 そして、フレッシュな「生(なま)果物」感を出すべく頑張っているが故の、口ごたえの重さ。果たしてこれを女性が「コーヒー」と併せて飲めるのだろうか。作り手は、そこに想いを馳せているのだろうか?

 そもそも女性を狙うのになぜ「健康」で「果物」なのか?「美容」ならともかくなぜ「健康」なのか。しかもなぜカゴメと組んでいながら「野菜」ではなく「果物」なのか。更に言えば、「健康」で引きつけるのであれば、なぜ、男性も狙う商品デザインとしないのか……。

 ターゲットや、利用シーンに具体的に想いを馳せると、様々な疑問が思い浮かばれる。「わざわざ売り込みに行かなくても、お客様が購入しに来てくださる」1つの筋の通った流れがそこにあるようには、正直思えない。

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