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インタビュー

“入浴剤投入”発覚から4年――白骨温泉・若女将が語る「事件の真相」(前編)嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(1/4 ページ)

2004年、長野県白骨温泉の一部ホテル・旅館が入浴剤を混入していたという事件を覚えているだろうか。その後全国各地の温泉地で“温泉偽装”が発覚し、水道水を沸かした風呂で入湯税を徴収するなど、悪質な例も多数公表された。あれから4年――沈黙を守ってきた白船グランドホテルの若女将が、事件後初めて取材に応じた。

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嶋田淑之の「この人に逢いたい!」とは?:

「こんなことをやりたい!」――夢を実現するために、会社という組織の中で目標に向かって邁進する人がいる。会社の中にいるから、1人ではできないことが可能になることもあるが、しかし組織の中だからこそ難しい面もある。

本連載では、戦略経営に詳しい嶋田淑之氏が、仕事を通して夢を実現するビジネスパーソンをインタビュー。どのようなコンセプトで、どうやって夢を形にしたのか。また個人の働きが、組織のなかでどう生かされたのかについて、徹底的なインタビューを通して浮き彫りにしていく。


 →“入浴剤投入”発覚から4年――白骨温泉・若女将が語る「事件の真相」(前編・本記事)

 →田中康夫県知事が踏み込んだ、その時――白骨温泉・若女将が語る「事件の真相」(中編)

 →涙の会見後、何が起きたのか――白骨温泉・若女将が語る「事件の真相」(後編)

 →“本物”の温泉とは?――ポスト秘湯ブームの今、満足できる温泉に出会う法(番外編)

事件後、姿を消した白骨温泉の「なぜ」?

 「人の噂も75日」という。しかし75日どころか、4年経った今でも、人々の記憶に生々しく刻印されている出来事が存在する。2004年、白骨(しらほね)温泉での入浴剤投入発覚を発端として、全国に波及した「温泉偽装問題」である。入浴剤はキッカケに過ぎなかった。水道水を沸かした湯を温泉と称し入湯税まで徴収していた有名「温泉地」を始め、日本全国の温泉施設における驚くべき実態の数々が明るみに出て、我々に強い衝撃を与えた。

 あれから4年。テレビの旅番組では、何事もなかったかのように、全国各地の温泉が紹介され旅情を誘っている。その中には、偽装発覚で問題になった温泉地が多数含まれているし、当時「相当に悪質」と言われたところもある。その一方、偽装問題発覚の発端となった北アルプスの秘湯・白骨温泉だけは、この4年間、民放キー局の旅番組からは、ほとんど姿を消してしまい、全国の書店で買える旅行ガイドでもその扱いは限りなく小さくなっていた。

 なぜ白骨温泉だけが姿を消さざるを得なかったのか?  その要因の1つは温泉偽装に関する人々の記憶に、「白骨温泉=温泉偽装」という公式ができてしまったことである。

 「たらちねの」と言えば「母」、「あしびきの」と言えば「山」が出てくるように、「温泉偽装問題」と聞くと、反射的に「白骨温泉」「入浴剤投入」というフレーズが枕詞のごとくになってしまったのである。

 しかし、仮にそうだとしてもである。白骨温泉に比べてはるかに悪質な偽装を行っていた温泉地が「復権」して人気を博している。また事件後、場所によっては「より巧妙な偽装が行われている」とすら言われているのに、今なお白骨温泉だけが、あたかも事件の全責任を負わされたかのような扱いになっていることに、筆者は割り切れないものを感じ続けていた。入浴剤を投入しなかった宿もあるというのに……。さらに、肝心の白骨温泉自体が、事件後ほとんど情報発信していないことも釈然としなかった。

4月中旬の白骨温泉。温泉地がにぎわうはずの週末の昼間でも、外を歩いている人は少ない

 事件発覚以来ずっと釈然としなかったものを感じていた。そこでたびたび白骨温泉を訪れ、白骨の自然や湯を愛し親しんでいた筆者は、この4年間の「モヤッとした想い」をクリアにすべく、今回、同温泉の取材を思い立ったのである。

 取材に応じてくれたのは、白船グランドホテルの若女将・齋藤ゆづるさん。2004年7月、田中康夫長野県知事(当時)が抜き打ちで踏み込み、見事(?)、入浴剤を発見するという、ドラマチックな映像が全国に流されたことによって、一躍その名が知られた。その直後の「若女将・涙の記者会見」と併せ、あたかも“白骨温泉の偽装の象徴”であるかのような立場になった女性である。事件後、ほとんど取材に応じることもなく、沈黙を守ってきた若女将は何を語ってくれるのだろうか? 

 2008年4月、例年より早い春の訪れを感じさせる白骨温泉。4年ぶりに再会した若女将やホテルのスタッフたちは、今なお逆風渦巻く中で懸命に生きていた。ひたすら明るく振る舞うその表情や仕草には、むしろ苦悩の深さが感じられる。あれから4年。白骨温泉の人々は、一体どんな日々を過ごしてきたのだろうか。

白船グランドホテルの外観

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