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ハーゲンダッツ――“至福の瞬間”を形にしたドルチェ小西賢明の「お客様を想え。」(2/5 ページ)

アイスクリーム市場を牽引し続けるハーゲンダッツ。その新しいカテゴリーは、洋生菓子とアイスクリームの中間を行く「ドルチェ」だった。“至福”というコンセプトを完全に商品で再現した、ハーゲンダッツの強さとは?

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 無論、今日現在も手綱を緩めてはいない。「近年、日本のアイスクリーム売り場に様変わりが見られる。特に注目すべきは、高級化を基軸にした市場全体の品質の向上。高級アイスクリームの市場でダイレクトに競合するライバルが増える中、成長しているからと言って、安心してはいられない」と、ハーゲンダッツ社員の知人は社内の共通認識を語ってくれた。

 「高級」「高品質」というハーゲンダッツの方向性を市場全体が踏襲するかのような、アイスクリーム市場全体の大きなトレンド。力強いリーダーであるがゆえに、皆に目指されてしまうことは止められない。現段階では、まだ、「競合の脅威が業績に現れている」とまで差し迫った状況ではないが、確かに明らかに安穏としてはいられない状況だろう。ただ、知人のコメントからも分かるように、ハーゲンダッツはそれを冷静に捉えている。

横ばいの市場と競合の追い上げに対し、先行企業が打つべき手とは?

 横ばいの市場、競合の追い上げに対し、ハーゲンダッツのような先行企業は、いかなる手を打つべきか。そのヒントは常に、市場に隠されている。

 市場に閉塞感がある以上、これまでと同じように戦い続ける傍ら、「外にも打って出る」ことが1つの解になるだろう。それが、シンプルで力強い結論だ。

 では、どこに出るべきか。こうした際に定石となるのは、いきなり遠隔地を攻めるのではなく、近接する領域を攻めることだろう。

 例えば真っ先に考えられるのが、お菓子市場だ。お菓子市場は「洋生菓子」「和生菓子」「パン」「その他菓子(焼き菓子、キャンディー、チョコレートなど)」に大別できるが、この中で高級アイスクリームを武器に戦ってきたハーゲンダッツにとって、身近で攻めやすいのは……「洋生菓子市場」。

 洋生菓子は「出来上がり直後において水分を40%以上含むもの」と定義される。つまり、平たく言えばケーキ類のことだ。

 全日本菓子協会によれば、この市場は2006年度実績でアイスクリーム市場の1.3倍、4670億円の売上規模を持つ。そして、何より着目すべきは、この市場では著名なパティシエらが牽引するスウィーツブームにより、高級化が進んでいること。ハーゲンダッツのブランドを生かしたビジネス展開をするのに、もってこいの市場だ。

 ハーゲンダッツがアイス市場の閉塞感から脱却し、既存のブランドイメージを活用しながら、さらなる柱を築いていくとすれば、「ケーキ」「スウィーツ」などの洋生菓子市場が極めて有望なターゲットになるだろう。

 ただ、ここまでは誰にでも比較的、自然に導き出せる結論である。問題は、ここにどのようにして参入するかということだ。大切なのは、その具体的な打ち手の描き出しである。さあ、どうか。

モノではない何か。新しい価値から、まず考える

 まず、基礎知識として押さえておきたいのが、アイスクリームも洋菓子も、F1層(18〜34歳の女性)が牽引する市場であるということだ。とりわけ高級商品のターゲットユーザーは、この層に集約される。ハーゲンダッツから見れば、これまでと同じユーザー層をターゲットに「新しい何か」を買ってもらうことになる。単なる「ケーキ」ではなく、「ハーゲンダッツならではの何か」。

 その「何か」をガッチリ描ければ、ハーゲンダッツとしては新たな柱を手にいれることができるだろう。

 では。その「何か」をどのようにして描くか。マーケティングを学んでいる者なら分かるはず。ここで思いつきは、厳禁である。

 最初に確認したい。ハーゲンダッツは何を売っている会社か。アイスクリーム?

 いやいや。マーケティングを学んでいる者なら、「モノ」を語るのではなく、「価値」を語るべきだ。

 ハーゲンダッツが世の中に提供しているもの。それは「手の届く贅沢」「自分へのご褒美」「(平穏な)日常への刺激」。そんな「価値」を表す言葉で語られるべき。

 「モノ」だけを売り物にすると、お客様の支持は一過性のものとして終わってしまうかもしれない。しかし、ひとたび決めた「価値」にとことんこだわって、その価値を「モノ」の形に具現化し続ければ、お客様との信頼関係が構築される。そして、それが長期にわたりブランドを支える力になる。

 繰り返すがハーゲンダッツが世の中に産み出し続けているものは、「アイスクリーム」ではなく、「贅沢」や「ご褒美」や「刺激」である。そして、ハーゲンダッツブランドで世の中に何かを提供する以上、すべて製品は「贅沢」や「ご褒美」や「刺激」を与え続けるものではなくてはならない。これは必須のお約束である。

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