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第4回 ファイナンスの実践(前編)保田先生! 600秒でファイナンスを教えてください(3/5 ページ)

約10分で“分かりやすく”ファイナンスについて説明する保田隆明氏の連載。今回は資金調達戦略が企業価値に与える影響などについて紹介していく。

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「借入金を第一に」考える理由

 私たち個人にとって、借金とはどういう響きを持つでしょうか?きっと、色に例えるならグレーか黒、決して明るい雰囲気を持つものではなく、できれば避けたいもの、というのがその印象でしょう。そして、必ず返済するべきもの、という理解でいることと思います。

 一般の会社員であれば、ざっくり40年間働いて約3億円の生涯年収を手に入れます。借金をする場合は「生きている間に返済できる範囲内」に抑えようとします。借金をして自己投資をすれば必ず生涯年収が上がる、というなら話は別ですが、そうとも言い切れないので、なるべく借金を持たずに余裕のある生活を送りたい、と思うのが普通です。

 しかし、私たちが「不老不死の存在」で、「収入も右肩上がりで永久に伸びていく」という前提があれば、なにも30年や40年で借金を完済する必要はなくなります。

 だって、来年、再来年の自分がもっともっと稼いでくれるのですから、わざわざ今借金を返済する必要がないからです。そうして借入金の返済は「永久に」先延ばしができるようになります。

 現実には不老不死の人はいないので、個人の場合にこれを適用することはできませんが、企業の場合はそういうロジックで借入金を活用しています。つまり、企業は未来永劫存続するものであり、収益も拡大していくという前提の下、個人のように10年や20年で完済することなどハナから頭に入れずに借入を行うのです。

 国の借金にしても同じです。日本の抱える借金は、我々国民1人当たり700万円とも800万円とも言われ、国の収支は赤字です。国の借金は全く減らず、それどころか毎年膨らむ一方です。向こう10年、20年に返済できるような代物ではありません。きっと私たちが死んでしまったあとも、100年、200年先までこの借金は残っていくことでしょう。

 どうしてそのような多額の借金が可能かと言えば、国が未来永劫存続する、という前提があるからです。いくら借金を抱えても国が存続する限りはいつか返済が可能なはず、という楽観的発想に基づいています。

 今の日本国の財務状況は、企業であれば倒産寸前、いや実質的には倒産の状況です。そのような国が発行する国債を購入する投資家が存在することが不思議に思われますが、1つひとつの国債は5年や10年満期なので、投資家は「5年か10年以内に国が破産しない限り、元利払いが保障される」と考えて国債を購入しているのです。国債とは、国が発行する債券のことを意味しますが、これを購入する投資家は、実質的に国に対してお金を貸し付け、代わりに国から利息を受け取ることになります。2008年1月15日に発行された5年債の場合は、年率0.94%の利率がついていました。この場合5年経つと貸した元本もすべて戻ってきます。

 このような「先送りの姿勢」はちょっと怖いような気もしますが、今多額の借金をして投資を行い、結果として将来の企業や国の収益がグンと上がるとすれば、将来の日本国民は前の世代を恨むことなく、むしろ「よくやってくれた」と賞賛することでしょう。個人の場合、死ぬときに借金を残すと必ず子孫に恨まれるのとは違うわけです。

 したがって、個人の借金に対しての考え方と、企業や国の借金に対しての考え方とを同じレベルで考えることはできません。新聞などで「国の借金を家計に例えると火の車」といった記事を見て「それにしては危機感がないなあ」と思われた方もいるかもしれません。危機感がないように見えるのは、国や企業はこの「借金返済の先送り」ができるからなのです。

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