金融危機で損をしたのは金持ち? それとも一般庶民?:山崎元の時事日想(2/2 ページ)
「金融危機は私たちの生活にどのような影響がありますか?」――こうした質問をよく受けるが、この“私たち”は誰のことなのだろう。正確に言うと「所得階層別に違ってくる」のだが、今回最もダメージを受けたのは……。
では、相対的に所得の低い階層はどのような影響を受けるだろうか。
端的に言って、不景気な時にもっとも失業しやすいのが、派遣や請負で働く労働者のような、雇う側から見て雇用を打ち切りやすい労働者たちだ。今後、日本も失業率がさらに上昇するような状況になる可能性が大きいが、その場合に職を失う人は、この階層の中にいる人が圧倒的に多いはずだ。
しかし相対的低所得階層にあっても、失業する人は「大いに困る」だろうが、失業に至らない多くの人の場合、現実的に収入などの労働条件が悪化する人ばかりではない。この階層にあっては、同じ階層の中でも、状況が悪化する人(それも大いに困る人)と、そうでない人(物価が下がるのでほんの少し得になる人)に分かれることになる。
ただ朝の情報バラエティ番組などで、「私たちの生活にどんな影響があるでしょうか?」と言うときの「私たち」は、暗黙のうちに視聴者全体を指している。加えて推察するに、こうした番組の視聴者の多くが「私たち」には自分が含まれていると思いながら、共通の喜びや苦労を背負うことによって、漠然と一体感を感じることが、演出上の目的になっているように思える。視聴者の側もそれを期待しているのではなかろうか。こうした文脈で、金融危機の影響を、所得階層別に分けて解説するというようなことは「野暮」というものだ。
ただし視聴者の側でも、なかば無意識のうちに「私たち」というくくりがもはや適切でないことを感じているだろう。そうした感覚は、メディアに対する信頼感・一体感を長期的には損なっているに違いない。もちろん、これは広告を通じたメディアの経済価値に対してもマイナスの材料だ。地上波のテレビのような多数を相手にするメディアは、「私たち」という言葉の神通力が消滅しつつあることに対処しなければならないのだが、有効な対策は見つかっていないように思える。
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