3人の“セルフコーポレート”――私の起業物語:郷好文の“うふふ”マーケティング(1/2 ページ)
「郷は最近どうしているだろうか?」。プロフィールから勤務先の名前が消えたため、そんな疑問を抱いてくれる人がいた。10代、20代前半といった“アラウンドティーン”の時期に抱いた夢を実現するために独立したのだ。
著者プロフィール:郷 好文
マーケティング・リサーチ、新規事業の企画・開発・実行、海外駐在を経て、1999年より2008年9月までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略、業務プロセス改革など多数のプロジェクトに参画。 2008年10月1日より独立。コンサルタント、エッセイストの顔に加えて、クリエイター支援事業 の『くらしクリエイティブ "utte"(うって)』事業の立ち上げに参画。3つの顔、どれが前輪なのかさえ分からぬまま、三輪車でヨチヨチし始めた。著書に「ナレッジ・ダイナミクス」(工業調査会)、「21世紀の医療経営」(薬事日報社)、「顧客視点の成長シナリオ」(ファーストプレス)など。中小企業診断士。ブログ→「マーケティング・ブレイン」
「郷は最近どうしているだろうか?」
そんな疑問を抱いてくれた人が数人いた。というのも1カ月半ほど前、私のブログのプロフィールから所属先企業名が消えたからだ。
その理由は9月末に会社を辞めて独立したから。退職あいさつのメールを送ると、返信で「郷さんは会社にいるころから独立していたようなもんだから」と励ましてくれた人もいた。でもそれって、社内で“孤立していた”ってことですか(笑)。
辞めた理由は、新事業を始めるから。とはいえ、孤立しても“個立”して生き抜けるほどの才覚もないし、寂しがり屋なので2人の仲間と一緒だ。また新事業と並行して、コンサルタント稼業と物書きも続ける。
世間から見れば、私の独立は小さな井戸の中の小さなさざなみに過ぎないだろう。でも独立の物語が誰かの参考になればいい。今回は、セルフポートレート(自画像)ならぬ、“セルフコーポレート(自分事業)”をテーマに書いてみたいと思う。
2枚の事業メモが出会った
きっかけは再会だった。
6月のある日、元同僚のnoirさん(ノワール、フランス語で黒の意味)から「お茶飲みませんか?」という誘い。ランチの後、カフェで語り合った。
「もんちほし、っていいよね」とnoirさん。
「うん、彼女はすごい」と私もうなずく。
“もんちほし”さんとは、私がBusiness Media 誠で取り上げたイラストレーター。彼女の作品とピュアなスピリットにほれ込んで、気合いを入れて書き上げた。もんちほしさんを知ったのは、noirさん経由。noirさんは高品質な印刷を得意とする印刷会社の取締役で、仕事柄クリエイターとの付き合いが多い。その彼の夢は、「クリエイターを支援したい」だった。
「それにはこうしたらいいんじゃないかな」と私は手元の紙片に、ちゃちゃっとあるプランを描いた。
「これがクリエイターがしてもらいたいことだと思うんだ」
「ほぉ郷さん、ボクと同じことを考えているんだ!」
サラサラッとプランを描けたのは、再会に先立つこと数カ月前から、相棒Cherryさんと私とで「こんなことできないだろうか?」と似た事業プランをずっと語り合っていたからだ。
カフェから戻り、Cherryさんにnoirさんとの話を伝えた。私のアイデアの評価尺度は、彼女の“YES/NO”。たいていNOを出す彼女だが、なぜだか即座に言った。
「やりましょう!」
そこで事業コンセプトやビジネスモデル、メニューやサイト開発など試行錯誤を重ねた。Cherryさんも私も会社を辞め、10月には小さなオフィスも構えた。新事業はイラスト、木工などさまざまな分野のクリエイターの作品展示と販売が軸だ。
なぜなら「面白そうだから」
今回のエッセイを書く上でCherryさんに聞いた。
「今さらだけど、なぜこの事業をやりたいと思ったの?」
「面白そうだから」、微笑んで彼女は言った。雑貨好きの彼女は雑貨ショップなら何時間でもいられる。あれこれ見て触わり、頭の中で身の回りをコーディネートする。「ここにしかないモノで生活シーンを彩りたい」という。
一方、noirさんや私は「1人ぼっちのクリエイターの支援をしたい」と語りだす。私なぞ「マス・マーケティングは終わり、ナノ・マーケティングの時代」なんて評論してしまう。男性は理性の動物で、女性は感性の動物。男は原点にこだわり、女は気持ちにこだわる。私たちの事業は、原点と感性の混合体として始まった。
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