社員を“エンゲージメント”するって何だ?
マーケティング用語としても社員教育のキーワードとしても、最近耳にする“エンゲージメント”。それを実践しているアメリカン・エキスプレスのプログラムに密着してみた。
マーケティングだけでなく“社員教育”の一環として、昨今注目を浴びている言葉の1つ――エンゲージメント。でもいったい、エンゲージメントとは何なのか?
「『太郎君はエンゲージされているよね』。社内ではこんな文脈で使われます」
こう話してくれたのは、クレジットカード大手のアメリカン・エキスプレス(アメックス)で社員のエンゲージメントを手がけてきた加盟店事業部門の田中真義部長だ。
エンゲージメントとは、「会社」と「社員」が一体となって双方が成長することに貢献し合う関係を指す。エンゲージされた社員とは、取り組む意欲が高く、会社のブランドに自発的に貢献する社員のこと。同社では、社員のエンゲージメントに力を入れており、その一環として「ペイント・マーチャント・ブルー」という取り組みを行っている。
ペイント・マーチャント・ブルーとは、各部署の人たちがチームを組んで、アメックスのカードが使えるお店――加盟店を回り、店頭にアメックスのシールを貼って回るというものだ。
「アメリカン・エキスプレスではプロフェッショナルな人が多く、うちの会社の業務を知らない人も多い。ペイント・マーチャント・ブルーはカードビジネスを知るために、最もよい体験です」と田中さん。
このプログラムを始めたのは6年前だが、各部署から自発的に参加する社員が多く、今回も国内全社員の約6割が参加するという。このペイント・マーチャント・ブルーに参加した1チームに1日密着して、社員のエンゲージメントの秘密に迫った。
13:00――加盟店とは縁のなかった旅行事業部門人たちと
東京・荻窪にあるアメリカン・エキスプレス本社前に集合した、今回のチームメンバーたち。加盟店とのやりとりを仕事としている加盟店事業部門の町田さんをチームリーダーに、旅行事業部門から4名が今回のメンバーだ。
2つの事業部門の人たちは面識がなく、これが初顔合わせ。さて、どう進むのだろう?
「お店に入ると、入り口にアメックスのシールが貼ってあるかどうか、つい職業病で見ちゃうんですよ」と町田さん。
13:50――ランチで自己紹介
今回の作戦地、飯田橋に到着。チームは早速作戦会議にとりかかる。もちろんお昼を食べながらだ。
「お集まりいただいてありがとうございます。食後に詳しくPOP活動の説明をしますが、まずこの用紙にサインを。参加者1人あたり500円を会社がチャリティーに寄付しますので」(町田さん)
なるほどこうした取り組みに参加すると、間接的に社会貢献もできることになるわけだ。
「そして参加費のランチクーポンをお渡ししますね!」
昼食代としては多少のお釣りが出そうなアメックスのギフトクーポン! これも参加のモチベーションの1つだったわけだ。さらに、最も多くのシールを貼った優勝チームには、2万円の賞金が出るという。
「今日は優勝を狙っていきます!」
14:30――「入る前に決めておく!」作戦会議
食後のコーヒーを注文しながら、作戦会議のスタートだ。今日はあらかじめ割り当てられた、飯田橋近辺のお店、40店舗を回って、ステッカーを貼っていく。なんかオリエンテーリングみたいで、チームのみなさんも楽しそうだ。
「お店と会話して関係強化を担ってください。とにかく感謝の気持ち! お店の売り上げを伸ばすために『これを貼るとお店のビジネスでプラスになりますよ』と言ってください」
町田さん、気合十分だ。続けて、うまくシールを貼るためのコツの伝授が始まった。シールを貼るほかにも、カード伝票にサインするためのグッズなどが参加者には配られている。これをお店のレジの前などに置いてくるわけだが、「日ごろの感謝の印です、とお伝えして、気持ち的には――置き逃げです!(笑)」。町田さんすごい。
「まず加盟店さんのためになる。アメックスの会員は、アメックスが使えるお店かどうかを気にするんです。店に入って『アメックス使えますか?』と確かめにくい。調査によると25%の人が、ステッカーを探してお店に入る。ステッカーを入り口に貼っておけば、これを目印にお客さんが来るようになります。『いいお客さまが来てくれますよ!』と話してください」
加盟店事業部門にとっては常識でも、普段オフィスにこもって電話応対をしている旅行事業部門にとっては初めて聞く話。みんなウンウンと真剣にうなずいている。
「ステッカーをうまく貼るポイントは、お店に入る前に貼る場所を決めておくこと。迷いなくお店の人に『こちらに貼らせてください』と断言してください!」
ついつい弱気になってしまうが、それではダメ。こんな心構えのレクチャーを通じて、意識が1つになっていくわけだ。
15:00――実は「機嫌が悪い時間帯なんですよね」
では店舗に突撃! ランチタイムも終わってひっそりとしたお店の扉をガラガラと開ける。「ごめんくださいー。アメリカン・エキスプレスですがー」「…………」
「忙しいランチタイムが終わって休憩していることもあるので、機嫌が悪い時間帯なんですよね」
町田さん、もっと早く言ってください!
たどたどしくもお店の人と交渉してシールを貼り、帰り際にはレジにサイン用のペンを置くことに成功。「緊張しました。ドギマギで……」と感想を話したのは旅行事業部門の内田さんだ。
「アメリカン・エキスプレスにまだ入ったばかりで。すごく新鮮です」(内田さん)
次のお店は、高級そうな和食料理屋さん。
「夜のお店だから留守かな?」
「奥の電気、ついているなぁ」
「じゃあ、行きましょう」
なんか内田さんも、旅行事業部門の五十嵐さんもノリノリになってきた。仕込み中だったにもかかわらず、「ステッカーを貼るのではなく、カードが使えるのが分かる置物などはありませんか?」と、お店の人は丁寧に対応してくれた。美観を気にするお店も多いのだ。問題なく交渉は終え、このお店でのミッションはクリア。
しかし終わってから五十嵐さんがポロリ。
「シール貼りたいなぁ」
五十嵐さん、もう気持ちは加盟店事業部門になってますよ。
16:00――午後のプログラムを終えて
各部門から初対面の人たちが集まって半日。“エンゲージメント”の効果はどうだったのだろうか? そもそも、どうしてこのプログラムに参加したいと思ったのだろうか?
「去年参加した人に、『とても楽しいから』と言われたので――」と答えてくれたのは、旅行事業部門の宝居さん。同じく旅行事業部門の松本さんは「オフィスの中の仕事で電話ばかりなので、外に出たかったです」と理由を話す。
「全く畑が違うので、これを機会に知り合いになれたことがよかったです。例えば、(旅行事業部門の)五十嵐さんと知り合えたので、これからお店を旅行事業部門にご紹介することもやりやすいですし」とはチームリーダー町田さんだ。
「こういう活動に参加すること自体が、“エンゲージされている”ということだと思う」と、広報の池原亜矢子さんがきれいにまとめてくれた。
半日参加した記者も、これから飲食店に行ったら「アメックスのシールは貼られているかな?」とつい確認してしまいそう。なるほど、これがエンゲージメントなのね、と肌で実感した半日であった。
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