“底なし沼”にもがく米国……GDP−3.8%の裏に潜むもの:藤田正美の時事日想
リーマンショック以降、急速に悪化している米経済。2008年第4四半期のGDPが発表されたが、予想に反して−3.8%に収まった。しかし予想よりも良かったからと言って、楽観的に考えてはいけないようだ。
著者プロフィール:藤田正美
「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
急速に悪化している米経済だが、2008年第4四半期のGDP(国内総生産)の数字が明らかになった。多くのエコノミストは年率換算で前期比5%前後のマイナスになるのではないかと懸念していたが、実際の数字は3.8%となった。ただし予想よりも良かったからと言って、楽観論は禁物のようだ。
それはGDPを下支えしたのが在庫の増加だからである。要するに、企業が減産に踏み切るのが遅れて在庫が積み上がっているということだ。フィナンシャル・タイムズ紙によると、メリーランド大学のピーター・モリッチ教授は「悪いニュースが2009年第1四半期に押しやられただけ。もし在庫の積み増しがなければ、エコノミストが予想していた数字とほぼ同じになった(関連リンク)」と語ったという。
在庫がもしこれから削減されるとすれば、2009年第1四半期の数字は悪くなる。実際、モルガン・スタンレーでは第4四半期は4.5%マイナス(年率換算)と予想していたが、今では5.5%マイナスへと下方修正している。
楽観的にはなれない米経済
エコノミストの電子版によると、ほかの数字を見ても楽観的にはなれないと説明している(関連リンク)。
例えば2008年第4四半期は、ガソリン価格が大幅に下がって実質所得が上昇したにもかかわらず、消費者支出はマイナス3.4%だった。これまで「過剰消費」してきた消費者が貯蓄に走っているからである。所得の2.9%を貯蓄に回したとされているが、この数字は2002年初以来の高い水準だ。
企業の設備投資はマイナス19%、ITバブルがはじけた後の2001年のどの四半期よりも悪い。しかも一部の企業は、2008年末で切れた税優遇措置を受けるために設備投資をむしろ増やしている。それなのにこれだけ大幅に設備投資が落ち込んでいることは、需給ギャップの大きさを示唆していると言えるかもしれない。
輸出入は両方とも急減したため、GDP計算の上ではあまり影響は大きくない。しかし他国の状況が悪いことが懸念材料だ。例えば英国はマイナス6%程度、ユーロ圏はマイナス5%、そして金融危機の影響もそれほど大きくなく住宅バブルもなかった日本はたぶんマイナス9%になる。
オバマ大統領の「公約」に期待がかかる
こうなってくると米国のオバマ大統領が「公約」した景気刺激策に期待がかかるところ。家計の負債が大きく膨らんでいるだけに、実際に効果がどのくらいあるかは難しいところだが、議会予算局によれば、やらなかった場合に比べ、1.3から3.6%ぐらいはGDPを押し上げる効果があるという。
しかし米国の家計は4兆ドルもの過剰な負債を抱えているという試算もあるだけに、消費が本格的に戻る気配を見せなければ、景気も足踏み状態が続く可能性もある。
日本も、家計の財布のひもはなかなか固い。年金は支給開始も遅れ、金額も減ってしまうかもしれず、医療や介護も国任せにできないと思っていれば、余裕があるはずの団塊の世代もそうそう消費ばかりに走ることはできまい。
そしてさらに悪いことに、日本の場合は、人口構成の変化が市場を直撃していることだ。とりわけ国内の自動車販売はすでにピーク時から4割程度下がっている。若者に自動車離れの傾向が見られるからだ。つまり内需拡大と言っても、自動車だけ見ても、相当悲観的にならざるをえないのである。
これでも麻生総理は、“世界で最も早く日本が回復する”と言い切れるのだろうか。
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